研究課題/領域番号 |
18K11850
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
木下 征彦 日本大学, 商学部, 准教授 (10440025)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 世界遺産 / 地域社会 / 観光 / まなざし / 再帰性 / 観光社会学 |
研究実績の概要 |
前年度と同様、新型コロナウィルス感染症の影響や現地の状況変化によって調査の遂行に困難をきたしたが、ウィズコロナ政策への転換と歩調を合わせて現地調査を段階的に再開した。しかし、研究計画全体の遅れを取り戻すには至らず、再度研究期間を延長して当初目的を達成する予定である。 本年度は、主に交付申請書の「研究の対象と方法」に記載した①~③について、それぞれ次のように取り組んだ。 ①「(a)富岡市民の〈世界遺産のまち・富岡〉へのまなざし」と「(b)世界遺産前後の富岡市民の意識と行動の変容・進展」を分析するため、市民意識調査の調査票等の準備を行った。実査の準備はほぼ整ったがコロナ禍の影響で実施することができなかった。この調査は本研究の軸となる部分であるため、再度、代替方法の検討や実現に向けた関係者との調整を継続して次年度に実施する予定である。また、地域社会に散在する各種データの収集・整理については可能な限り現地への訪問を重ねてデータを蓄積した。 ② 世界遺産登録の影響を測定するための基本的な視点と方法の検討についても、当初予定して地域での聞き取り調査を徐々に再開しつつ、二次資料の収集・分析を重ねた。一方で、前年度に引き続き、「佐渡島(さど)の金山」における事例調査に取り組んだ。当初予定していたものとは異なるが、その成果は本研究にフィードバックすることができるものであった。なお、本研究の鍵概念となる「再帰性(Reflexivity)」と「まなざし(Gaze)」については理論的な検討を継続してきたが、新たに「記憶の共同体」の概念との関係性を再検討の上、論文として発表する予定である。 ③ 富岡市における世界遺産登録がもたらす地域社会への影響に関する事例分析については、先行研究と収集済みデータを用いて分析モデルの検討を重ねた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度と同様に新型コロナウィルス感染症の影響によって現地での調査研究に支障をきたした。とりわけ高齢者を対象とした聞き取り調査の実施は、ウィズコロナ政策の方向性が定まった年度後半からようやく再開するにとどまった。ただし、調査票調査の実査を担う研究チームを組織することができず、調査の実施を再び延期せざるを得なかった。なお、調査票の検討はほぼ完了しているが、先行する調査データの再度の分析を踏まえた精査を継続している。 同様に、当初計画していた世界文化遺産の先行事例地域(石見銀山・熊野古道など)での聞き取り調査については、本年度も実施を断念し、文献研究で代替した。前年度に開始した「佐渡島(さど)の金山」における世界遺産登録運動の事例研究は本年度も継続することができた。 また、研究期間3年目に予定していた現地での観光客調査の実施も同様の理由で実施を見送ったため、全体として研究計画の遅れは取り戻せていない。 一方で、「(a)富岡市民の〈世界遺産のまち・富岡〉へのまなざし」と「(b)世界遺産前後の富岡市民の意識と行動の変容・進展」を文献研究から捉える新たな視角からの研究に取り組んだ。具体的には、富岡市における富岡製糸場の価値評価について現地で収集した史資料からその変遷過程を析出した。これは本研究の主題に大きく関連するものである。 なお、理論研究は順調に進んでおり、「再帰性(Reflexivity)」と「まなざし(Gaze)」概念によって世界遺産登録がもたらす地域社会への影響を説明するモデルを試作した。さらに「記憶の共同体」概念を用いた説明図式を準備中である。ただし、調査データの不足によって、これらの研究成果は公表には至っていない。 総じて、主にデータ収集面で当初計画が大きく遅れている状況である。そのため、研究計画の修正のうえ、研究期間を三度延長して当初目標の達成を目ざす。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間を三度延長して、これまで中断していた各種調査や研究計画にための調整に取り組む。 まず、調査計画については、先行研究との比較分析という当初計画の核心部分は維持しつつ、柔軟に状況変化に対応できるように取り組む。当初計画どおりの調査を実施できる準備をしつつ、現地の状況に応じて調査対象・サンプリング方法・実施方法を選択できるように複数の代替案を準備している。次年度は再度、現地関係者・協力者との調整を行い、調査方法と計画の基本方針を決定して調査実施に取り掛かる。 また、観光客調査については次年度に現地で調査を実施する予定である。 富岡市における世界遺産登録後の各組織・団体の事業活動の内容・実績に関する資料の収集・整理は継続する。前年度に取り組んだ、史資料の検討による定性的なデータにもとづく研究にも一定以上の意義が見い出せたため、引き続き取り組む。そのために行う文献研究は、組織・団体への聞き取り調査で得たデータとの整合を特に意識しつつ実施する。先行事例調査については、現地訪問とデータ収集を目指す。 最終的な目標である世界遺産登録がもたらす地域社会への影響に関する事例分析は、調査の実施が遅れているが、これまでに得た定量的・定性的なデータを踏まえつつ、分析モデルの確立に向けた作業を継続する。なお、収集済データを用いて記述的な分析を行ったところ、世界遺産登録による社会経済的な影響は限定的であることが示唆されている。したがって、昨年度より地域愛着やシビックプライド等、コミュニティ形成の観点から地域社会における世界遺産登録の影響を捉えることができる分析枠組みを確立するため「再帰性」「まなざし」に加え、「記憶の共同体」概念を用いた説明モデルの構築を目指している。最後の研究期間延長となる次年度は、それらの作業を通じて当初の研究目標の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の重要な柱となる市民意識調査は、標本数2000規模の郵送調査を予定している。そのために必要な郵送費や調査票返送費を中心に計上した予算が、調査の実施を延期したため次年度使用額となっている。 研究期間を延長して、これらの予算を使用して次年度に調査を実施する予定である。
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