本研究では、群馬県富岡市を事例として世界遺産登録が地域社会に及ぼす影響の実態を調査しつつ、その分析のための基本的な視点と方法を検討することをめざした。これまでの研究の結果、本事例においては世界遺産登録がもたらす地域社会への影響は限定的であることがわかった。 観光客の増加やそれが引き起こした中心市街地の活性化などの現象は、限られた範囲のものであり、地域全体に影響を及ぼすものではない。他方、社会・文化的な側面においては、市民意識や地域文化への影響を見出すことができる。具体的には、地域社会と富岡製糸場の関係性の変化、「工女」や「シルク」など、地域の記憶や文化の表象化、市政における争点化などである。
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