研究課題/領域番号 |
18K11852
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
金光 淳 京都産業大学, 経営学部, 准教授 (60414075)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アート・フェスティバル / 異化効果 / 現代アート / Instagram解析 / 写真論 / 社会ネットワーク分析 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究課題となっている2019年度における瀬戸内国際芸術祭でのアート効果(異化作用)調査のための準備を進めるとともに、現代アートに関する知識の蓄積と文献の収集を行った。具体的には次の4つにまとめられる。 ①現代アートの海外での展開を知るために国際学会への参加・発表(オランダ・ユトレヒトでの社会ネットワーク分析の学会)を兼ねて、ヨーロッパにおける現代アートの先進地で写真アートをリードするオランダ・アムステルダムの3つの現代美術館を回り、2つの写真美術館を訪問し知見を大いに深めた。ユトレヒトの学会では前回2016年度に行った瀬戸内国際芸術祭の調査について発表し、フィードバックを得た。またアムステルダムで海外文献の収集も行った。 ②アート・フェスティバル調査の背景の理解を深め、調査における仮説の導出に欠かすことができない文献調査を行った。とりわけ現代アート論や写真論に関する様々な文献を収集、読破し、現代アートと写真に対する理論を大いに深めた。同時に自らInstagram投稿を開始し、予定調査の一つとなっているInstagramの調査方法、分析方法を深めた。また近年社会調査において注目されている視覚的な調査方法の文献調査も行った。 ③秋に学生とともに2019年度に本調査を行う島の一つである豊島において簡単なアンケート調査を行い、2019年度調査のプレテストをおこなった。少ないサンプルながら調査項目の設計に関する知見を得ることができた。具体的には豊島の産業廃棄物問題を連想させる豊島展示のアート作品を住民に選んでもらう設問の有効性を確認することができた。 ④来年度の写真投稿と比較するための本年度におけるInstagramの投稿状況の調査方法を行い、ウェブ上からデータを収集し、現在分析を行いつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
幸いにもサバティカルを半年取得していたこともあって、時間的に余裕があり、ほぼ予定通りの進捗である。また資金を前倒ししたことによって、十分な文献調査が可能となったためと思われる。あえて予想外の問題を指摘すれば、上の研究実績の概要の④のInstagramの投稿の分析において、Instagramにおいてハッシュタグの複数検索ができない(以前はできた)ためにグーグル検索で代替せざるを得ず、検索が不完全で十分な数のデータを収集できなくなったことである。そのため、Instagramのハッシュタグのネットワーク解析を工夫する必要が出てきた。 時間的な余裕もあり、関連する調査としてアート・フェスティバルに企業がどうして協賛するのかをアンケート用紙を企業に送り、別の側面からの調査も行った。これは研究成果として論文にまとめられた。 あえて問題があるとすれば、もともと難しい課題であるInstagramの画像の解析方法と比較方法についての研究がやや遅れており、さらに研究を続けていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度においては瀬戸内国際芸術祭のトリエンナーレの開催の本調査において以下のように行う予定である。具体的には現地質問紙調査及び画像分析である。 ①現地質問紙調査:瀬戸内トリエンナーレの開催期間中の現地調査によりアートサイト訪問を契機とした観光客の認知構造変化を測定する。アンケート調査は、アート・フェスティバルの入口となっている宇野港,高松港のフェリー乗船場と次の3島(いずれも特殊な地域問題を抱える)で実施する。1.ハンセン病の隔離施設が存在する大島、2.産業廃棄物問題を抱えつつ美術館島化が進んでいる豊島、3.帰島者などにより小学校が再開した男木島、である。調査は,以下の手順で行う。 回答者にはフェースシートのほか、大島、豊島、男木島に関してコンセプトマップを記入してもらう。 ②大島、豊島、男木島の各島においてアート・サイト訪問後の観光客に質問紙調査を行い、回答者にはフェースシートのほか、それぞれの島に関してコンセプトマップを記入してもらう。サンプル数各200。 ③投稿写真画像分析:観光客のアートサイト訪問による認知構造の変化を、その転写形態としての投稿写真画像に求め、その画像パターンの変化として測定する。 アート・フェスティバル開催期間中に投稿された各島に関するInstagramの投稿写真と、前年度(通常時)に各島に関して投稿され平均的な投稿パターンとの差を検出し、またハッシュタグのテキストパターンの違いを含めて投稿写真内容の差分を測定する。平均的な投稿パターンとの差を検出については画像分析方法を深める必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に次年度使用額の前倒し請求を行ったが、理由は以下の3つである。①予定していた本調査のための予備住民調査を現地の豊島で行い、次年度のための調査項目の可能性を探ったこと、②次年度との比較のために予定していた、Instagramの解析のため、投稿画像からハッシュタグを取り出す作業が困難を極め、作業量が多く学生バイトを雇う必要が出てきたこと。そのための情報機器の購入③Instagramの画像解析のための理論的、技術的な研究のためにかなり高度で高価な専門書の文献調査を十分に行う必要が出てきたためである。計画はほぼ予定通りに進行した。 次年度の予定としては、瀬戸内国際芸術祭の開催年の本調査を現地で行い、アートサイト訪問を契機とした観光客の認知構造変化を次の3つの調査、方法で探る。つまり①豊島と大島を焦点とするブランド・コンセプトマップ調査②作品鑑賞前後の異化効果を測定するアンケート調査と、島の抱える社会問題と島のアート作品との連想ネットワーク調査③Instagram投稿写真のハッシュタグのネットワーク分析と画像そのものの前年からの変化測定、である。最初と2番目の調査は、芸術祭の夏会期と秋会期において、所属大学の小豆島施設を本拠とし行うゼミ合宿時に約30名の学生を動員して行う予定である。
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