本研究は、瀬戸内芸術祭の訪問者に関する現地アンケート調査に基づいて、現代アート作品が本来備えている社会的効果を中心に、芸術祭の訪問者がどのようにアート作品を評価するか、アート作品の訪問者に与える効果を明らかにした。 1)産業廃棄物の経験のある豊島調査では、観光客と産業廃棄産業への関与度の高い地元民の間に大きな作品選択のパターンの違いが見い出せた。選択理由の分析から、地元民では作品6の「コロガル公園」の窪んだ形状が産業廃棄物場を直接的に連想させることで多くの選択を集めたことが分かった。他方観光客でも作品の「土っぽさ」「ゴタゴタ感」が作品6の選択を促したことがわかった。山口情報芸術センターの屋内施設を豊島では野外に作成したものであり、産廃問題に関して、調査者の介入によって、アプロプリエーション/サイト・スペシフィシティ/非永続性/集積/異種混淆化といった手法でアレゴリー効果=全く別のもので比喩したいものを表現する効果を訪問者に与えていた。 また2)ハンセン病施設の島、大島での調査において、ハンセン病問題理解の広がりと深化といった認知構造変化を確認することができた。訪問前のエッジ数は251、ノード数は198、訪問後のエッジ数は315、ノード数は234であり訪問後でイメージは膨らんでいる。内容では、訪問前後とも「隔離」や「差別」の連想が強く、「ハンセン病―隔離―差別」のネガティブな「トライアングル」が核を形成しているが、訪問後では「安心」や「安全」、「未来」といったプラスの言葉が出現する。また「伝染」や「感染」の言葉が訪問前より訪問後では減り、訪問後は「今は治せる病気」といった希望表現も出現する。これはハンセン病への理解が具体的に深まったことを裏付けている。これは「異化効果」=感情的同化ではなく日常性を批判的に観察させる効果が働いていることを意味する。
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