本研究は、人類の悲劇そのものの記憶の継承に加え、これまで注目されてこなかった復旧・復興の経験・記憶の継承についてダークツーリズムの考え方を援用し、次のアクシデントに備えるための記憶継承手法のパッケージ化を目的としている。今年度は過去にあった人類の悲劇について、その当時の当事者が鬼籍に入りつつある出来事(イベント)について、その状況、継承について調査をおこない、事例を蓄積することに重点を置いた。 本年度はCOVID-19の影響により、調査を積極的にできなかったが、これまでの成果を高木(2020・2021)、井出(2020・2021)などの編著等にまとめることができた。また、本課題のとりまとめとして、進化経済学会にて報告をおこなった(井出・高木(2021))。 人類の悲劇の継承に際し、「当事者」としての意識を持つ(持ってもらう)ことが重要であると考える。この「当事者」としての意識を持つきっかけとして、悲劇の現場を訪問し、悲劇の断片に触れる役割を担うダークツーリズムの意義は大きいことが明らかになった。また、悲劇の体験のない第三者による継承事例(旧満洲開拓団・アウシュビッツ強制収容所の事例)からは、ダークツーリズムによる経験が、俯瞰的に悲劇を見ることができること。しかし、それはいまの自分とは関係ないものではなく、空間軸と時間軸によって結びつけられていること。これらのことが理解されることで、「悲劇」の継承へとつながっていくことが明らかになった。こうしたことは、発災から10年を経過した東日本大震災、とりわけ福島での原子力被災地域における経験の継承の一助となるものである。
|