研究最終年度として,これまで聞き取り調査を行ったDMOにかかわる情報やデータを整理・分析し,論文等を発表した。特に,先進的な取り組みを行う3 つの地域連携DMO(雪国観光圏,秩父地域おもてなし観光公社,信州いいやま観光局)について,彼らがステークホルダーとどのように関係を構築し活動を展開しているか,そのプロセスを明らかにした。 研究の結果,地域連携DMOの活動展開プロセスとして,プロセスAとプロセスBの2つを導くことができた。すなわち,DMOの設立背景などにより,とり得る活動展開プロセスは異なる。プロセスAはこだわりを追求できるDMOやDMC的に振舞うことが期待されたりするなどの条件がそろっているDMOに参考にものである。プロセスBは,多くのステークホルダーとつながり,活動を展開するもので,ステークホルダーが意見や活動をしやすい環境を整え,ステークホルダーの事業化を支援することが,DMOの基本的な立ち位置となる。手間がかかるプロセスであるが,それがまさにDMO の姿だと言える。 研究では,さらに,Porter and Kramer (2011)によるCSV を手掛かりにして理論的な考察を行った。プロセスAは,社会的価値を創造(地域活性化)して,それを経済的価値の創造(企業利益の増大)につなげようとするものであり,プロセスBは,社会的価値の創造(地域活性化)と経済的価値の創造(企業利益の増大)の好循環が,まさに期待できるものである。このように,CSVを手掛かりに考察すると,ステークホルダーの経済的価値の創造と観光地の社会的価値の創造を両立させ得る,プロセスA とプロセスBは矛盾するものではないことが明らかとなった。 以上から,本研究では,DMOに対する実践的な知見を提供できたとともに,CSVを手掛かりとして理論的な貢献をあげることができたと考える。
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