研究課題/領域番号 |
18K11869
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西名 大作 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (60208197)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | キャプション評価 / 観光地 / 観光景観 / 中国人 / 日本人 / 社会・文化的背景 / 異文化間比較 |
研究実績の概要 |
本研究では,広島県の観光地を実際に訪問させ,気になる事物を写真に撮影させ,その要素,特徴,印象を回答させるキャプション評価実験を,中国人,日本人双方を被験者として実施し,両結果を比較する。さらに,単なる訪問では獲得困難な,観光地とそれを構成する様々な要素に関する詳細情報を予めパンフレット形式で提供することにより,被験者に観光地の特徴を十分に理解させた上で同様な実験を行い,詳細情報を提供しない場合と比較する。これら一連の結果より,日本人とは異なる社会・文化的背景を有する中国人の,観光に対する姿勢や態度,興味や関心を抱く対象などにおける特徴を見出した上で,詳細情報の有無による観光地に対する認識・評価の差異について検討することにより,中国人を主とした外国人観光客の日本誘客に資する情報を収集することを目的としている。 以上の実験のうち,詳細情報を提供しない実験については,平成28年度に中国人,平成29年度に日本人を対象に予備的に実施した結果を活用し,観光地の特徴をA4判表裏のパンフレット状にまとめた詳細情報を提供する実験を,平成30年度は中国人,令和元年度は日本人を対象に,それぞれ秋季に実施した。加えて,令和元年度には季節変化による影響を検討するため,中国人のみではあるが,同様の実験を春季にも実施している。 また,広島県の観光地を対象とした一連の実験結果と比較することを意図して,平成30年度には大連の観光地7ヶ所における日本人を被験者としたキャプション評価実験を試行したが,令和元年度も同様の実験を日本人のみならず,中国人を被験者としても実施した。 令和3年度も令和2年度に引き続き,コロナ禍により,海外での研究協力者との協議や実験の実施に制約を受けたため,主としてこれまでの実験結果のより詳細な分析に注力し,成果を査読論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中国大連における詳細情報ありの実験の遂行については,海外渡航が極端に制限された結果,被験者の訪中を可能とする日中合同WSが中止となったばかりでなく,詳細情報作成のための観光情報や資料の収集もままならず,さらには中国在住の研究協力者との研究協議も困難となったため,令和2年度に引き続き,ほとんど進捗していない。 しかしながら,中国大連を対象とした実験結果からは,日本人と中国人との差異に,広島県の観光地とは異なる傾向が認められたため,現地訪問を伴うキャプション評価実験以前に実施した,大連市内34ヶ所の観光地を対象とした画像評価実験の結果に改めて着目し,日本人と中国人の中国の観光地に対する姿勢や態度を明確にすべく,評価傾向の異なる複数のグループにそれぞれを類型化し,相互比較分析を進めている。 また,詳細情報の有無による,広島県の観光地総体についての評価構造の差異を比較分析した結果では,総合的な満足度への固有性の影響が増し,表層的な環境情報から深層的な意味や価値をより重視する傾向が,詳細情報ありの場合に認められた。この成果については日本建築学会環境系論文集の令和3年8月号への掲載を果たした。加えて,詳細情報なしの実験結果のうち,要素,特徴,印象の回答に数量化理論第Ⅲ類を適用して得られた成果については,データの再整理等のため進捗が遅滞していたが,令和3年度に内容を改めて見直し,分析を追加したことにより投稿を果たし,現在,査読中である。さらに,詳細情報ありの場合の要素,特徴,印象のデータについても数量化理論第Ⅲ類の適用を図り,現在,詳細情報なしの場合との総合的な比較分析を進めている。 したがって,コロナ禍により当初計画は遅延を余儀なくされ,順調な進展とは言い難いが,当初の研究計画にはない中国での実験を除いては相当の成果が得られ,かなりの程度の公表も果たせたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
広島県の観光地を対象とした実験では,日本人と中国人の両被験者,詳細情報なしとありの両条件の4種のデータを既に獲得しており,令和2年度に引き続き令和3年度においても総合的な比較分析を進めている。その結果,詳細情報なしの場合についての要素,特徴,印象の関連,並びに,その観光地間,被験者間の総意に着目した数量化理論第Ⅲ類による分析結果を主とする論文を投稿することができた。現在,その成果に基づいて,詳細情報ありについても分析を進め,要素,特徴,印象の3種の情報よりなる観光地に対する被験者の認識,観光地総体の評価との関連に及ぼす詳細情報の有無による影響の解明に注力する。 また,中国大連の観光地を対象とした実験結果については,近代にロシアが開発に着手し,日本がそれを引き継いだ都市成立の経緯によって,両国の建造物の遺構が主たる観光対象にもなることから,中国らしいか否かといった観点の他に訪問意欲に影響する要因が存在する。画像評価実験結果に基づいて,日本人と中国人の姿勢や態度の相違を一定程度明らかにすることができたことから,改めてキャプション評価実験の結果に適用し,より詳細な比較分析を行う。 加えて,大連の観光地における詳細情報提供の可能性について具体的な検討を進める。すなわち,在中国の研究者の協力を仰ぎながら,各観光地とそれを構成する様々な事物について,観光ガイドブックやパンフレット等の観光情報のみならず,成立の経緯や歴史的価値等の特徴を日本や中国の数多の文献資料を参照することにより,被験者に提供する詳細情報の作成を試みる。さらに,可能であれば,日本人,中国人双方を被験者とした,詳細情報ありの実験を実施するが,コロナウイルスへの対策が進み,海外渡航制限の劇的な緩和が日中双方で見込めない限りは,さらなる延期の可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は,令和2年度に実施できなかった,中国大連の観光地を対象とした,中国人,日本人の双方を被験者とした詳細情報ありの実験を試行することを計画していた。これにあたっては,詳細情報作成のための資料,文献の購入,在中国の研究者との協議,並びに,現地見学に伴う渡航費用,さらに被験者移動のためのバスチャーター費用や各種観光地の入館,入場料などの負担が見込まれたが,コロナ禍による渡航制限のため,これら新規実験の計画,準備,実施に伴う諸費用はいずれも支出されなかった。 令和4年度は,状況が許せば実験を実施するため,上述した支出が想定されるが,実験が仮に困難であったとしても,その準備作業として詳細情報の作成,印刷までは考えたい。また,収集したデータのより効率的な分析に注力することになるため,統計解析用ソフトウェアや,被験者に記述させた文章,撮影させた画像等を扱いうるソフトウェア等の購入も検討する。さらに,EBRA(環境行為学会)での成果発表のための渡航費も考えたい。
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