研究課題/領域番号 |
18K11879
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
本田 量久 東海大学, 観光学部, 教授 (90409540)
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研究分担者 |
藤田 玲子 東海大学, 国際教育センター, 教授 (90366930)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 越境的な多文化ネットワーク / 橋渡し型社会関係資本 / 地域活性化 / インバウンド観光振興 |
研究実績の概要 |
令和元年度(2019年度)は、前年度に実施した新潟県糸魚川市や長野県下高井郡山ノ内町における地域活性化や観光振興の取り組みとその効果に関する調査結果と地域内外ネットワークの構造・実践に関する理論モデルとの接合を図りつつ、これら二地域で現地調査を継続した。 第1に、調査対象地では、地域コミュニティの中心人物を拠点に多文化ネットワークが形成され、地域活性化と観光振興の実践が展開されていることを改めて確認した。このような多文化ネットワークは自己完結的ではなく、多様な利害や価値観を有する地域内外ネットワークと連携しながら情報共有や地域活動を展開し、新たな価値を創造する柔軟な構造をもっている。 第2に、地域外在日外国人ネットワークや海外ネットワークが地域コミュニティと情報共有と現地訪問を継続し、その協働関係を拡大する実践を重ねていることが新たに明らかになった。特に注目したのは、首都圏在住のスイス人A氏と日本専門スイス旅行会社の経営者B氏を中心とする越境的なスイス人ネットワークである。A氏は定期的に糸魚川市内の集落を訪れ、地域コミュニティと協力しながら地域活性化や観光振興に貢献している。日本居住経験をもつB氏は、いまも日本各地を訪れてネットワークを広げる一方、糸魚川ネットワークやA氏と連携しながら顧客を糸魚川に送り出している。糸魚川を訪れるスイス人観光客は、インターネット上の匿名的な情報ではなく、信頼できるスイス人ネットワークを媒介に情報を得ていることが明らかになった。 第3に、社会関係資本(パットナム)、創造都市(フロリダ)や創造農村(佐々木雅幸)、パーソナル・ネットワークと情報フロー(カッツとラザースフェルド)に関する研究を踏まえて、地域活性化や観光振興を推進する越境的な多文化ネットワークに関する理論モデルを構築し、調査結果との接合を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度(2018年度)と同様に、令和元年度も越境的な多文化ネットワークの観点から地域活性化や観光振興の取り組みとその効果を把握すべく糸魚川と山ノ内で現地調査と聴き取り調査を実施した。特に令和元年度は、首都圏在住のスイス人A氏にたびたび同行し、糸魚川における地域活性化や観光振興に向けた住民との連携活動を観察した。またチューリッヒ調査を実施し、日本専門スイス旅行会社の経営者B氏とそのスタッフ、糸魚川の温泉旅館でインターンとして働いたことがある2名のスイス人と友人・家族、日本料理店を経営するスイス人から話を聞き、越境的なスイス人ネットワークを通じた情報フローと訪日動機を高める効果を確認できた。令和元年度は、前年度よりも頻繁かつ深く糸魚川ネットワークとスイス人ネットワークのつながりを観察する機会を得られるなど、有意義な調査を実施できた。これらの調査成果は、社会関係資本、創造都市/創造農村、パーソナル・ネットワークに関する理論モデルと接合し、学会で積極的に報告することができた。以上のことから本研究はおおむね順調に進展していると評価する。しかし、その成果を論文のかたちで発表できておらず、今後の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度と令和元年度を通じて、糸魚川と山ノ内で現地調査を継続した。特に糸魚川調査では、糸魚川ネットワークとスイス人ネットワークの協力を得て、双方のつながりを観察し、重要なデータを収集できるなど大きな進展があった。そして、社会関係資本、創造都市/創造農村、パーソナル・ネットワークと情報フローに関する先行研究を踏まえた理論モデルを構築し、糸魚川調査と山ノ内調査の成果を接合させるところまで本研究を進めてきた。令和2年度(2020年度)は、これまでの研究成果を論文にまとめる予定である。また、地域活性化、観光振興、社会関係資本、越境的な多文化ネットワークなどに関する先行研究の成果を追加的に整理し、理論モデルのさらなる精緻化を図りたい。これらと同時に、糸魚川やスイスなどで現地調査を継続したいが、コロナ感染拡大の影響で現時点では困難が予想される。現地調査が実施できない間は、メールやオンラインで糸魚川ネットワークやスイス人ネットワークの関係者から情報提供を受ける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度も、4月から12月にかけて継続的に糸魚川と山ノ内で現地調査や聴き取り調査を実施した。しかし、2月と3月に予定していた糸魚川調査とスイス調査がコロナ禍によって中止を余儀なくされた。その結果「旅費」の支出額が予定額よりも小さくなった。このような理由から生じた次年度使用額は、(コロナ禍の先行きは不透明であるが)(1)現地調査と聴き取り調査に伴う旅費と謝金、(2)論文の英文校閲費として支出する予定である。
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