研究課題/領域番号 |
18K11879
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
本田 量久 東海大学, 観光学部, 教授 (90409540)
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研究分担者 |
藤田 玲子 成蹊大学, 経営学部, 教授 (90366930)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 越境的多文化ネットワーク / 社会関係資本 / 観光まちづくり |
研究実績の概要 |
平成30年度(2018年度)、平成31年度(2019年度)は、行政、旅行業者、在日外国人、地域住民、外部者といった多様な主体による連携的活動に着目し、地域活性化や観光振興を推進を図る越境的多文化ネットワークの実践とその効果を調査した。さまざまな領域で活動する人たちが共通の目標達成のために地域内外で文化資本や社会関係資本を動員し、多様性に開かれたネットワークを構築するとともに、地域の内発的変容や新たなアイデンティティ/シビック・プライドの醸成に寄与することが分かった。また、在日スイス人とスイス国内スイス人が形成するトランスナショナル・ネットワークが日本文化に関する情報拡散に貢献し、スイス人観光客の訪日動機を促すうえで重要な役割を果たしていることを明らかにした。 その後、コロナ禍の拡大によって、現地調査が困難になったことから、令和2年度(2020年度)と令和3年度(2021年度)は、ネットワークに関する理論・学説研究を再検討したうえで、糸魚川を拠点に形成された文化人ネットワークに着目し、相馬御風(文人)、谷村繁雄(谷村建設初代社長)、中根金作(造園家)、澤田政廣(彫刻家)、村野藤吾(建築家)らに関する資料を収集した。関東大震災から糸魚川に避難してきた澤田政廣は、相馬御風と知り合ったのを契機に、糸魚川とのつながりを広げ、1983年には、谷村繁雄の要望に応じて、中根金作、村野藤吾らとともに谷村美術館の創設に貢献した。谷村美術館は、糸魚川の自然景観や地域資源(翡翠)を活かした文化空間であり、また個展や文化イベントを開催するなど、領域を超えた文化人ネットワークの拠点となっている。糸魚川は、谷村美術館が象徴するように、地域内外の優れた文化人が時代を超えて協働し、さまざまな地域特性を融合した文化的なまちであり、また観光地としてのポテンシャルを有すると評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題を開始した当初、令和2年度(2020年度)に最終的な現地調査や聴き取り調査を実施し、その成果をまとめた最終報告書を作成する予定であった。しかし、令和2年度にコロナ禍がはじまり、研究遂行上の支障が大きかったことから、研究期間を延長したという経緯があった。しかし、令和3年度(2021年度)もコロナ禍は収束せず、さらに研究期間を再延長せざるをえなかった。以上のような事情から、この2年間、本研究課題の最終段階から先に進めなかった。 さらに述べるならば、コロナ禍によって人びとの意識や行動が大きく変化したことから、コロナ禍以前に進めた現地調査(地域活性化やインバウンド観光振興に向けた取り組みとその効果/課題)や理論研究(社会関係資本や越境的多文化ネットワークなど)の成果を再検討する必要が生じた。特に、調査対象地において外国人観光客が実質的に皆無になったことから、観光情報を拡散する越境的多文化ネットワークの有効性/限界、インバウンド観光振興が地域に及ぼす経済的・社会的・文化的な効果/影響については調査できなかった。 ただし、上述したように、調査対象地における文化人ネットワークが構築する文化空間や観光資源の歴史的な形成過程とその有効性を検討することができた。この意味で発展的な調査を遂行できたと認識している。また、調査対象者と連絡を取り合いながら、調査対象地における地域活性化や観光振興に向けた取り組みに関する情報収集は継続してきたことから、コロナ以前の調査成果と今後の研究計画を接続することが可能であろう。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍によって人びとの意識や行動が大きく変化し、これに連動して観光まちづくりの実践も変更を余儀なくされている。しかし、コロナ禍以前とコロナ時代/ポスト・コロナ時代の間に連続性を見出すことも可能であろう。令和4年度は、過去・現在・未来に連なる地域活性化や観光振興の取り組みとその有効性を調査する予定であり、すでにその準備を進めるべく、調査対象地で活動する関係者と連絡を取り合っている。 これに関連し、日本のインバウンド観光振興に尽力するスイス人関係者とも情報共有を継続している。現時点で日本のインバウンド観光が本格的に再開する時期は不透明であるが、スイス国内でその準備を進めている。ここでは具体的に記述できないが、日本文化に対するスイス人の関心を維持・向上する取り組みを展開している。ただし、現時点でスイス訪問は難しいことから、在日スイス人を対象とした聴き取り調査を継続したい。 以上のようなインバウンド観光振興や地域活性化に関する現地調査に加えて、ネットワークに関する理論・学説研究を再検討したい。R.パットナムの議論によれば、結束型社会関係資本は、地縁血縁、利害関心や価値観などの共有によって形成される同質的なコミュニティを支える一方、橋渡し型社会関係資本は多様性に開かれたネットワークの構築・拡大に寄与する。J.アーリのモービリティ論が提起する議論は重要であるものの、特定の場所を拠点としたネットワークに着目するパットナムの視点は、農村地域における地域活性化や観光振興の条件を考えるうえで有効であろう。またネットワークと情報拡散に関するE.カッツとP. F.ラザースフェルドの議論を参照し、越境的多文化ネットワークの有効性を検討したい。これらの議論を踏まえつつ、R.フロリダの創造都市論、佐々木雅幸らの創造農村論を組み込み、観光まちづくりの力学を理論化してみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度もコロナ禍の影響によって、引き続き国内外における現地調査を実施できず、また学会出張の機会がなかったことから、ほとんど「旅費」を支出することがなかった。しかし、令和4年度は、コロナ禍の状況を勘案しながら現地調査を遂行する予定である。
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