研究課題/領域番号 |
18K11879
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
本田 量久 東海大学, 観光学部, 教授 (90409540)
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研究分担者 |
藤田 玲子 成蹊大学, 経営学部, 教授 (90366930)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 越境的多文化ネットワーク / 社会関係資本 / 観光まちづくり / インバウンド観光振興 / 日本観光プロモーション |
研究実績の概要 |
多文化ネットワークによる観光まちづくりに関する本研究課題は、コロナ禍の影響で停滞したものの、令和4年度(2022年度)は、(1)社会関係資本の有効性/限界、越境的多文化ネットワークの構築過程と情報伝達・拡散機能などに関する理論研究を再検討したうえで、(2)人口減少地域における地域活性化や観光振興に向けた活動、および(3)インバウンド観光振興に向けたスイス人トランスナショナル・ネットワークの実践に関する調査成果をまとめた論文を発表した。 前年度に続き、今年度もスイス調査は実施できなかったが、日本専門旅行会社(チューリッヒ)経営者らスイス国内スイス人と連絡を取り続け、また観光まちづくりの活動を実践する在日スイス人と面会し、現在の日本観光プロモーション活動に関する情報提供を得た。スイス人トランスナショナル・ネットワークは、(1)国境を越えて日本に関する情報を交換・共有する、(2)イベント開催、ドキュメンタリーフィルムの制作、出版物の刊行による日本観光プロモーションを展開し、マスメディアの注目を集める、(3)ワークショップ、日本飲食店・食材店などを通じて、日本各地に関する観光情報を提供し、特産品(米、日本酒など)や日本文化をチューリッヒなどで紹介するなど、コロナ禍から現在に至るまで一貫した情報戦略を実践してきた。インターネットで容易にアクセスできる匿名的な観光情報とは異なり、高い信頼にもとづくスイス人トランスナショナル・ネットワークが伝達する情報は、日本文化に高い関心をもつスイス人の訪日・再訪動機を維持し続けている。このようなトランスナショナル・ネットワークの情報伝達機能に関する本研究の成果は、「コミュニケーションの2段階の流れ」仮説(E.カッツとP. F.ラザースフェルド)の妥当性を示しており、また今後における日本の観光動向を考察するうえでも一定の有効性をもちうるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響によって、令和2年度(2020年度)以降、スイス調査を実施できなかったものの、令和4年度(2022年度)は、日本観光プロモーションに関わるスイス国内スイス人や在日スイス人から継続的に情報提供を得ることができた。彼らによれば、スイス人トランスナショナル・ネットワークは、コロナ禍以前から実践するプロモーション活動を継続しており、スイス人の訪日・再訪動機を維持・向上するうえで一定の効果をもたらしているとのことであった。この知見を踏まえつつ、コロナ禍以前に実施した調査結果をもとにした論文を発表した。 また、令和3年度(2021年度)は、コロナ禍に伴う行動制限によって、スイス調査のみならず、人口減少地域における観光まちづくりに関する調査さえも困難になったことから、研究内容の変更を余儀なくされたが、令和4年度(2022年度)は、引き続き、時空を超えた橋渡し型社会関係資本に着目しながら、糸魚川を拠点とした多文化ネットワークの形成過程と谷村美術館・玉翠園・翡翠園の建造・創設に関する社会学的な考察を進めることができた。地域資源/観光資源を形成し、それを有効活用するためには、地域住民と外部者の越境的な情報共有や協働的実践が重要な条件であると認識する視点は、本研究課題の一貫した問題関心であり、その意味で今年度はこれまでの遅れを取り戻すことができたと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度(2023年度)も糸魚川を拠点に構築された多文化ネットワークに着目しながら、主に谷村美術館・玉翠園・翡翠園といった文化空間の形成過程に関する資料収集を進める予定である。糸魚川の実業家・谷村繁雄は、幅広いネットワークをもつハブ的存在であり、澤田政廣(彫刻家)、村野藤吾(建築家)、中根金作(作庭家)といった各分野における第一人者の協力を得ながら、翡翠園(1978年)、玉翠園(1980年)、谷村美術館(1983年)を完成させている。なお、澤田政廣は、1923年以来、糸魚川の文化人である相馬御風(文学者)との交友関係をもち、糸魚川に愛着を抱いていたことから、谷村繁雄の依頼を快諾し、旧知の仲だった村野藤吾を推薦している。今年度は、このようにして糸魚川を拠点に形成された時空を越えた文化人ネットワークの有効性を社会学的に検討してみたい。 また、コロナ禍の影響が徐々に落ち着き、日本人・外国人ともに観光客数が回復しつつあるなか、糸魚川においても、越境的多文化ネットワークが観光振興に向けた文化資源の活用を再開しており、コロナ禍前後の連続性とその有効性/限界についても考察してみたい。 以上の問題関心にもとづき、調査研究を推進し、その成果を論文として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、本年度も海外調査を実施できず、国内調査に限定して研究を進めたことから、次年度使用額が生じた。次年度も国内調査を継続し、旅費などで助成金を使用する予定である。
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