研究課題/領域番号 |
18K11883
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
二神 真美 名城大学, 外国語学部, 教授 (70209138)
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研究分担者 |
アーナンダ クマーラ 名城大学, 外国語学部, 教授 (00271396)
宮川 泰夫 皇學館大学, その他, 名誉教授 (20024052)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 持続可能な観光 / 国際認証 / 持続可能性指標 / 観光地マネジメント / 持続可能な観光の世界基準(GSTC) / 持続可能な開発目標(SDGs) |
研究実績の概要 |
2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)の達成において持続可能な観光の推進が重要な役割を果たすことが期待されている。日本では観光庁が開発した国際基準(GSTC)準拠型の日本版「持続可能な観光指標」の運用が予定される中、本研究では持続性指標を用いた認証制度の有効性を多面的に分析するため、まず観光の持続可能性の国際認証プログラム(2020年4月現在約270)に関するデータベースの構築・更新を行った。特に研究2年目にあたる令和元年度においては、こうした観光分野の認証制度が持続可能な観光を推進するために果たして有効な手段であるのかを検証するための研究を本格化した。 まず海外において既に導入が進んできた地域及び観光事業を対象にして、認証制度の成果についての文献調査を行った。学術雑誌・書籍検索プラットフォーム(ScienceDirect、Taylor & Francis Online等)によって、タイトルまたはキーワードに持続可能な観光・認証(certification)を含む査読付論文(該当数63)を抽出し、1)効果の有無に関する研究、2) 認証プログラムに対する観光地(運営組織DMO等)及び観光事業者の認知度・選好度に関する研究、ならびに3) 認証プログラムに対する観光者の認知度・選好度に関する研究、ならびに4)認証プログラムと持続可能な開発目標(SDGs)との整合性に関する研究の4つに類型化しテキストマイニングソフトを用いた内容分析を行った。次に、文献調査の結果を踏まえて、認証プログラムに対する必要性を測るためのアンケート調査を実施した。また、持続可能な観光の国際認証を推進する世界組織であるGSTCの年次大会に参加し、認証プログラム開発者にインタビュー調査を行った。これらの研究成果については、日本観光研究学会のシンポジウム及び研究ワークショップにおいて研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況については、当初の研究計画において掲げていた目標について概ね達成することができたと言える。研究二年目の主な目標であった、「持続型観光の認証制度に対する認知度・選好度調査」について、まず三系統の学術研究検索システムを用いて、国・地域及び観光事業者を研究対象とした主要な論文・書籍全てを体系的に分析し、その結果を研究会・シンポジウム等で発表した。持続型観光の認証・エコラベルに関する研究のメタ分析は今世紀初頭から開始されたが、2015年の国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が策定されて以降、国際認証の有効性に関する研究は増加している。こうした世界情勢の変化を反映した本研究は、これまでの二年間において、国際認証の有効性に関する過去20年間の研究成果を網羅することができ、日本における持続型観光の国際認証研究を推進する基盤を構築できた。 近年の研究成果から、持続型観光の国際認証が有効であるか否かの検証は、こうした提供される国際認証自体の有効性を問うだけでは十分とは言えず、国際認証に対する需要がどの程度喚起され実施されているのかを把握する必要があることを明らかにした。この点について、本研究では研究計画に沿って、1)観光地マネジメント組織(DMO等)、2)観光事業者、及び3)観光者に対する調査として、核となる情報提供者へのインタビュー調査とアンケートの予備調査を実施した。DMO(またはDMC)及び観光事業者については、組織間で顕著な差異が見られた。観光者については、持続可能な観光の認知度は一定レベル以上あるが、持続可能な観光の選好度や国際認証の認知度は低い水準にあることが予備調査で判明した。このように、令和元年度の研究では、当初の研究計画で想定していた一定の成果を上げるとともに、国際認証の有効性に関する学術研究上の複雑な課題についても新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、日本型指標の導入が国内で始まることを受け、まず前年度に得られた新たな知見を取り入れて内容を拡充ながら持続型観光の認証制度に対する認知度・選好度調査を継続して実施する予定である。さらに、研究初年度から携わってきた持続可能な観光に関する国際認証の体系的なデータベースの構築と実効性の研究成果について、新型コロナウィルス感染症による世界情勢の大きな変化を踏まえながら、持続可能な観光のパラダイムシフトの動きも取り入れ、情報の更新と研究の精緻化を継続して実施していく。世界的な動向としては現在、持続可能な開発目標(SDGs)と関連づけた国際認証の基準・指標(GSTC-D v2.0)が本格的に地域レベルで実践されており、本研究においても観光分野におけるSDGs達成という観点からの持続型観光の国際認証の効果についても国内の都道府県レベルの統計分析を行っていく。 国内では、観光庁主導の日本版持続可能な観光指標プロジェクト及び国連世界観光機関(UNWTO)が推進するプロジェクト(INSTO)が複数地域で導入されることが決まっており、本研究の一環として、こうした対象地域での導入の効果について現地調査を実施する。さらに研究計画に沿って、今後海外への移動制限が解除(あるいは緩和)された場合は、過去二年間で国際的な連携の深まったスリランカの大学機関及び観光関連機関の協力を得て、GSTC基準適用の実態を調査するともに共同研究の成果発表を実施する。 三年間の研究成果について、一つには持続可能な観光の推進を目指す日本の観光地でも今後応用できるような、世界的な認証制度を活用した持続型観光モデルを日本観光研究学会での研究発表及び研究ワークショップの場で発表していく予定である。専門家との意見交換を経て、最終的には「持続可能な観光の基準に基づく国際認証とその有効性」に関する研究書を出版する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度後半に本研究に関係する国内専門家を招聘して研究会を開催する予定であったが、同専門家及び研究会参加予定者の多くが同一学会の全国大会に参加することが判明した。同一年度に時を経ずして研究会を開催するよりは、本研究の最終年度において改めて研究会を開催し、それまでに出された研究成果の分析及び出版に向けた集約方法について議論を深める方が有益であると判断し、次年度に繰り越して研究費を有効に活用することとした。
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