研究課題/領域番号 |
18K11886
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
八巻 惠子 就実大学, 経営学部, 教授 (10511298)
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研究分担者 |
井出 明 金沢大学, GS教育系, 准教授 (80341585)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 国立療養所長島愛生園 / 社会空間の再構築 / 観光地 / 地域振興 / 情報装置 / ヘリテージ / 共生(ともいき)収容 / レガシー |
研究実績の概要 |
本研究は、岡山県瀬戸内市の長島の観光地化を巡る社会空間の再構築のダイナミズムについての文化人類学的研究である。 長島には日本で最初の国立療養所の長島愛生園があり、入居者の平均年齢は88歳を過ぎている。全国に13箇所残る国立療養所では元ハンセン病患者や家族の体験を記録に残す作業が進められている。長島は離島であることからも療養所内の空き家や建物の保存状態が比較的良い。初代園長が隔離政策を推進した医師であったことからも、島はある意味でシンボリックな場所と考えられている。かねてから人権学習の場として学校や団体による訪問はあったがその数はとても少なく、近年では元患者の高齢化に伴い講演会や交流会もきわめて難しくなってきた。もっぱら学芸員やボランティアを語り部とする教育ツーリズムがほそぼそと行われてきた。 長島では、隔離生活を送った体験者の「記憶の束」を地域の歴史として残す方法を考えるためにNPOが設立され、世界遺産登録を目指している。このことは少子高齢化が進む地方都市においては地域振興の活動でもあり、財源の一つは瀬戸内市の地方創生の補助金である。建築物の保存を通じてフィールド・ミュージアムとし、観光を通じた情報装置の構築を進めている。 当該年度もコロナ禍でフィールドへの入園規制があり、島外調査が主であった。昨今のコロナ差別がハンセン病差別や当時の無らい県運動と似た構造にあることから、メディアを通じた人権啓発の動画発信は目立った。 世界遺産申請のためにNPOは、1)長島の建造物保全・史跡等調査、2)長島愛生園の「場所の記憶」についての価値、の研究を進めている。この間にギリシャのスピナロンガの要塞が世界遺産申請をしたが、イコモスはハンセン病療養所としてのスピナロンガ島としては評価することはなく、申請も受理されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度もコロナ禍でフィールドに入園規制があり島外の資料調査を中心とする研究に留まった。報告を予定していたサンクトペテルブルグの国際学会がロシアのウクライナ侵攻のために開催中止となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が最終年度になるので研究論文としてまとめる。長島の世界遺産登録に向けた議論は少なくともあと数年は継続すると思われる一方で、教育ツーリズムはすでに始まっていて、患者体験者に代わって語り部が長島を語りはじめている。かつて無人島だった長島がハンセン病患者を隔離するための島となり、人口減少によって近い将来は国立療養所としての役割が終わる。「隔離の記憶の継承」の方法として島は観光地化のプロセスにある。島の社会空間の読み替えのプロセスを論文で描き出したい。補足的なフィールド調査と事実確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により高齢者の多いフィールドの調査は叶わなかった。予定していたサンクトペテルブルグの国際学会がロシアのウクライナ侵攻により中止になった。研究会や学会のほとんどはZOOMで開催したので旅費を使わなかった。
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