本研究では、大学において女性研究者が存分に活躍できる研究環境を構築する視点から、女性研究者のキャリア形成における無意識バイアスの影響について調べることを目的としている。 2019年度に自然科学系の女性教授5名へのインタビューを実施し、質的研究法の一種であるM-GTAの方法論にのっとり、概念の生成を進めた。その後分析を精緻化するために、2020年度中に追加で8名の女性教授への半構造化インタビューを実施した。その際、出来事や環境がキャリアプロセスに与えた影響を与えたのかに注目した。2021年度は、合計13名分のデータについて、基本的な整理項目①教授を目指した時期、②上位職を目指すにあたって困難だったこと、③困難をどう乗り越えたか に分類したうえで、さらに②および③について、出来事の受け止め方やその後の行動に着目して分析を進めた。分析にあたっては、質的調査ソフトウェアであるN-Vivoを使用し、最終的には35の概念が生成された。その結果、キャリア形成にポジティブな影響を与えた要素としては「ロールモデルの存在」「押し付けられる女性らしさ(常識)に従わない/疑う意識」「研究活動自体へのモチベーション」「人とのつながりを大切にする姿勢」「奨学金、海外経験などの機会」「自分は運がいい/恵まれているという意識」「機会に飛び込む勇気/大胆さ」が、ネガティブな影響を与えた要素としては、「女性は働かなくて良い/給料が低くても良いという社会の意識」「女性を半人前をみなす社会の意識」「女性のライフイベント(子育て)に対する周囲のネガティブな態度/言葉」「男性社会ネットワークからの疎外」「男性が上、という内面化された意識」が明らかとなった。このうち「ネガティブを反転してキャリア継続につなげる考え方と行動」が特に重要であることが分かったため、引き続き、この点に着目して概念間の関連付けの精緻化を進めたい。
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