今年度は昨年度に引き続き、遠藤友四郎が主宰した雑誌『日本思想』の記事および著書の言説分析をおこない、保守言説に「西欧的なもの」が接合する際にジェンダーが果たす役割について、三宅雪嶺などとの異同に留意しつつ分析した。また西川光次郎の主張の変化過程を整理し、石川三四郎など初期社会主義からの思想変遷が指摘される者、およびその下の世代である赤松克麿などのいわゆる「転向」過程などと、西川のそれとを比較検討した。また妻・文子が中心的執筆者となっていた雑誌『新真婦人』にみられる夫婦関係観や夫(男性)道徳観を、奥むめを主宰の雑誌『職業婦人』のそれと比較し、西川自身および妻・文子の女性就労のあり方に対する現状認識および理想について、分析をおこなった。 全体として、近代日本の国家主義・民族主義言説においては、これらの議論が前提としている農本主義的な平等村における家族の、プライベートの時間的空間的閉鎖性への言及が欠落している点、福沢諭吉をはじめとする明治初期知識人の言説と比較して、女性の国民化に対する関心が希薄な点などが明らかとなった。一方で『日本主義的学生思想運動資料集成』(柏書房、2008)や『国家改造論策集』に収録された、様々な団体の国家改造論が前提している家族制度や「助け合い」「扶養」等のイメージ、人間(男性)像についての違いについては、昭和初期に進んだ女性の都市雇用労働者化についても勘案しつつさらなる分析が必要であり、今後の課題である。
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