研究課題/領域番号 |
18K11894
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
水島 希 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (60432035)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 市民科学 / ジェンダーと科学 / 放射能測定 / フェミニズム理論 / 市民参加 |
研究実績の概要 |
本研究は、女性の生活という立場から科学技術の有り様を議論するフェミニスト・スタンドポイント(FSP)アプローチを用いてチェルノブイリ原子力発電所以降に日本で行われてきた放射能市民測定運動を分析し、女性らの測定実践が果たしている社会的役割と、日本社会における放射線をめぐる「科学」の在り方を検討することを目的としている。当事者へのインタビュー、測定記録や日誌、会議録等の資料、ニューズレター、パンフレット、書籍等の発刊物の分析を通して体系的な調査を行う。 初年度は、福島第一原子力発電所事故以前から放射能測定活動に携わってきた第一波活動家らが、放射能市民測定運動の中で行ってきた測定実践および、それらを通して形成されてきた理念の調査を探索的に行った。すでにつながりのある活動家が体調不良のためインタビューの実施ができなかったが、一方で、別の経路から長期活動を行っている活動家との連携が形成されつつある。本年度明らかになったことは、震災以前の市民放射能測定には、想像以上に「専門家」の関わりがあるということである。核科学に限らず、環境測定や化学分析の領域で専門的トレーニングを受けた専門家らが、その技能を活かし、市民の立場から放射能測定に関与してきている。また逆に、非専門家という立場からは、福島原発事故以前に実施されていた、放射能以外の化学物質に関する(女性を中心とした)市民運動に関わった活動家らが、福島原発事故後に放射能測定に関わった事例についても調査を行った。 同時に本年度は、フェミニズム理論、特にFSPアプローチによる研究群の探索的調査を行った。この過程で、新マテリアル・フェミニズムと呼称される新たな動きが、本研究の分析枠組みとして援用できるのではという感触を得た。今後は、FSPアプローチと新マテリアル・フェミニズムとの関連を含めた理論枠組みの検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東京都内でつながりのある活動家が病気療養のためインタビューが実施できなかったことが大きい。チェルノブイリ原発事故後から活動を続けている方は高齢になってきていることもあり、なるべく早い時期にインタビューを行う必要がある。幸い、別の経路から震災前より活動をされている活動家の方とつながりができたので、次年度以降は複数のルートでインタビュー対象者のリクルートを行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
チェルノブイリ原発事故の後、全国で市民測定所が設立され、福島原発事故の時点でも放射能測定を行っていた。また福島原発事故の後には、母親らを中心とした放射能測定の動きが全国的に活発化した。こうした市民による測定運動には、多くの女性が関わっているが、なぜ「非研究者」で「女性」という層が放射能測定を行うのか、また市民科学としての測定運動は社会の中でどのような意義があるのかを体系的に描くことを目標として研究を行っている。 次年度は、当事者インタビューのうち、第一波の活動家の範囲を拡げたリクルートを行い、聞き取りを実施する。初年度に形成できたネットワークにより、当初、計画していた人数・内容のインタビューが実施できる予定である。また、「専門家」による市民放射能測定運動への関与事例として、高木仁三郎の定義による「市民科学者」という視点から、低線量被曝の身体的影響の疫学的研究を行い、後に欧州放射線リスク委員会(ECRR)の初代議長となったアリス・スチュワート(Alice Mary Stewart)、核実験放射性降下物による海洋汚染の研究を行った猿橋勝子の研究・活動を参照点として調査する。こちらは文献調査が中心となる予定である。 同時に、福島原子力発電所事故後に新たに参入した活動家らの調査も開始する。こちらも聞き取り調査および文献調査を中心に実施する予定である。 フェミニズム理論に関しては、引き続き、FSPアプローチおよび新マテリアル・フェミニズムに関する理論枠組みの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
東京都内でつながりのある活動家が病気療養のためインタビューが実施できなかったため。別の経路から震災前より活動をされている活動家の方とつながりができたので、次年度以降は複数のルートでインタビュー対象者のリクルートを行い、初年度計画数も含めたインタビュー実施を行う予定である。
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