2021年度は、本研究課題実施の最終年度であるため、その研究成果を広く社会に還元することを目的として、公開連続講座「〈性の管理〉の近現代史-日本・ヨーロッパ・アメリカ-」を実施した(2021年6月18日、6月25日、7月2日、同志社大学で開催しZOOMウェビナーで同時配信)。この連続講座の記録を、同講座のゲスト講師としてご協力いただいた内藤葉子氏、橋本信子氏、秋林こずえ氏と共に、人文研ブックレット第72号として刊行し(同志社大学人文科学研究所編)、インターネット上で公開した。 また、20世紀初頭の日本における人身売買問題の被害当事者にとっての自由廃業運動の意義を、遊廓近辺で流行した唄に着目して分析した論文「自由廃業運動と流行唄-ストライキ節・東雲節を中心に」(『社会科学』第51巻3号)を発表した。そこでは、演歌師でなく娼妓や芸妓ら無名の女性たちがストライキ節流行の主要な担い手だったことを指摘し、その唄の内容から判明した自由廃業運動の意義について論じた。 自由廃業運動に関しては、発掘した一次史料をもとに、一連の自由廃業訴訟の中で最も重要な娼妓・大熊きんの裁判について紹介し(「小澤三郎編U.G.マーフィー(モルフィ)関連自由廃業運動史史料(2)-娼妓・大熊きんの前借金をめぐる貸金請求事件-」『キリスト教社会問題研究』第70号)、大熊とその自由廃業を支援する者たちが、前借金制度が人身売買でありその返還請求が不法であることを、どのように示したかを論じた。 これらの研究成果によって、日本における人身売買問題や買売春政策に関し、これまで最も重要と見なされながらも不明であった娼妓自由廃業の実態について明らかにした。 また、近代日本の人身売買問題の温床であった公娼制度とその廃止を求める廃娼運動について、欧米の人身売買禁止運動が与えた影響の一端を具体的に示すことができた。
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