本研究は日本・アメリカ・オーストラリアを対象に、保育労働者の労働実態と発言(ヴォイス)メカニズムの比較を通じ、以下の諸点に関する研究調査を行った。 第一に、保育分野への市場原理の適用過程とケアの市場化の比較である。文献調査を中心として、アメリカにおける公的保育制度をめぐる労働運動、女性運動の動向と運動の挫折に関する歴史的整理を行った。オーストラリアについては市場化、特にABCラーニングセンター前後の動向とその評価について文献調査を行った。 第二に、市場を基本とするアメリカと、日本における市場化ルート、オーストラリアにおける市場化ルートの違いを念頭に、労働組合運動あるいは組織化されたヴォイスの現状・影響力を検討した。アメリカにおいてはファミリーデイケアを中心に、オーストラリアでは保育者の組織化の動向について現地調査を行った。 第三に、日本に関しては特に公共部門の保育労働と労働組合を中心に、市場化過程における公立保育所の実態から、保育労働者のヴォイスの影響力の実情を調査した。 これら比較作業を通じ、日本の市場化は保育労働者のヴォイスを排除するという性格を強く持っているとの仮説を得られた。公立保育所の廃止を通じて組織化基盤が掘り崩されているのに加え、子ども子育て支援新制度の制度設計は保育労働者のステークホルダーとしての発言を位置づけていない。 一方、オーストラリアではABCラーニングセンターの大規模破綻により若干の抑制がされたものの、営利企業の参入とチェーン展開は続いている。ただし、職種別最低賃金の交渉制度等により労働組合が一定の発言力を維持している現状がある。アメリカではSEIU、AFCSMEが未組織のファミリーデイケアの組織化に力を入れたことによって、郡、州レベルでの影響力を向上させている。
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