研究課題/領域番号 |
18K11906
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
石原 圭子 東海大学, 現代教養センター, 教授 (40184551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジェンダー / LGBT / 連邦最高裁判所 / アメリカ合衆国 / ナショナル・アイデンティティ / リベラル / 日米比較 / 同性結婚 |
研究実績の概要 |
グローバル化時代のナショナル・アイデンティティとジェンダーについての研究(日米比較)を進めるにあたり、本研究では、ナショナリズムの基本構造としての国家の統治機構や諸制度と文化的集合体としての国民意識との二重構造の関係性に着目し、グローバル化の時代、多様性が尊重される今日の状況の中で、いかに人々の意識に変化が生じ、また、国内でいかなる対立を生みだしているのか注目している。その上で、そうした国民意識の変化が、いかに政治や司法制度に影響し反映され、矛盾の無い形で収斂されてゆくのか考察している。 近年、急激な変化と対立が明らかになっているアメリカ合衆国民のジェンダーに関する意識、特にLGBTについての意識に注目し、それがいかに変化し、保守リベラル間の対立を生むとともに、政治や社会の制度にどのように影響を与え、法や司法判決として、どのように反映されてきたのか考察している。また、社会の制度の基本的枠組みを維持しつつ、どのように変容する社会に対応することが可能なのか、という点に問題関心をもって研究にあたっている。 多様性に富むアメリカにあって、自由と統合は常にアメリカ史の重要な理念であり社会的課題であるが、2020年においても、「ブラック・ライブズ・マター」といった人種間対立の緊張も全米的に高まり、アメリカ社会の分断が指摘されている。日本においても、少子高齢化が進み、海外からの労働力を受け入れるなど、一層、社会の多様性の進展が予測される中、ジェンダーの観点も包含しつつ、国家の制度と文化的多様性と統合の関係性を考察することの重要性は一層増している。国家・地域・家族・個人の関係性に関わる、21世紀における新たな国家像、そしてナショナル・アイデンティティについて重要な知見を得ることをめざしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グローバル化時代のナショナル・アイデンティティとジェンダーについての研究(日米比較)を進めるにあたり、20世紀末から21世紀にかけてアメリカ合衆国において、政治的にも、法律的にも、また、人々の意識の点においても、大きな変化のみられるLGBTの権利についての劇的な変化に注目し、連邦最高裁判所判決を中心に、司法と政治の関係、連邦と州との関係、保守とリベラルとの関係、政治と宗教との関係、大統領選挙、女性史家の見解、日米比較、など重層的に研究を進めてきた。 2020年、注目すべき判決をくだした連邦最高裁による判決を具体的事例として注目し考察を行い、「2020年連邦最高裁判所判決と1964年公民権法:LGBTの雇用をめぐる平等」として紀要にまとめた。この判決は、雇用の平等に関するものであったが、連邦最高裁は、1964年の公民権法を根拠とした。人種差別に対する公民権運動の影響を受けて成立した公民権法をLGBTの問題に援用するにあたっての裁判官の論理を分析しつつ、平等と多様性の尊重に関する人々の意識の変容が、いかに国家の司法制度の中で、法解釈における継続性が維持されつつ取り込まれてゆくのか、その保守性と革新性のバランスについて考察を深めた。この考察については紀要にまとめた。 政治と文化に関わる問題は、必ずしも論理的・理性的・合理的判断とは矛盾している場合も少なくない。政治と文化の結節点でもあるナショナル・アイデンティティに関しても複合的な観点からの研究が必要であると考えており、総合的に考える必要性も感じている。 2020年10月学術集会において、「性的マイノリティとしてのLGBTの正当化による新たな社会価値の創造」をテーマに総合的観点から発表を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、アメリカ合衆国の中でも、政治に関しても、ジェンダーに関してもリベラルな歴史をもつカリフォルニア州サンフランシスコにおいて、図書館、歴史資料館、LGBT博物館、等において関連する論文等の資料収集にあたるなど現地に行き資料収集を行ったてきたが、2020年度は、コロナの影響により予定していたアメリカ合衆国現地における資料収集ができなくなったため、国内で収集可能な資料を通じて研究を行い、成果を発表した。 今年度は、関連するナショナリズムとジェンダーに関連する書籍、論文等の追加的資料収集にあたるとともに、これまでの成果を総合的観点からまとめることを考えている。 個別の具体的事例を取り上げ、その検討作業を行いつつ、それらが、合衆国全体のナショナル・アイデンティティの中にいかに位置づけられるのか考察を行いたい。また、グローバル化時代のナショナリズムとジェンダーという研究全体についての構成を検討しつつ、執筆を進めることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度コロナ蔓延のため、アメリカ合衆国において資料収集の予定ができなくなったことによる。今年度は、追加資料収集および、資料をまとめるための機材、研究成果の発表のための費用に使用する予定である。
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