本研究の第一の目的は、女性福祉の運用実態とその問題点を把握し、望ましい女性支援のあり方を提示することであった。女性福祉の中核をなしてきた婦人保護事業については、今年度、その根拠法であった売春防止法から女性支援の部分を切り離し、それの新たな法的根拠となる「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」とその基本方針が制定された。今年度はそれにともなって行われた審議会やメディア、女性福祉の現場の支援者たちの間の議論について、情報収集を行った。またこれまでの研究の知見にもとづいて、基本方針制定時にパブリックコメントとして意見を送付し、基本方針に取り入れられた。 本研究の第二の目的は、「世帯のなかに隠れた貧困」について、その実態を把握するとともに、それをとらえるための貧困把握の方法の開発を行うことであった。今年度は、世帯内部の資源配分を実証的に明らかにした日本の研究状況について、英語圏の研究状況のなかに位置づけ、英語論文を執筆した。また、「世帯のなかに隠れた貧困」の実態を把握できる日本でほぼ唯一の量的データである「消費生活に関するパネル調査」の分析を、EU圏の同様のデータ分析の経験が豊富なGlasgow Caledonian UniversityのSara Cantillon教授とともに行うために、今年度は10ヶ月間グラスゴーに滞在し、共同研究を行った。英語圏の類似データと比較して、本データの持つ特異性を整理し、データ分析を行い、英語論文の執筆を共同で進めた。あわせて、今度の共同研究の進め方についても協議した。
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