戦後沖縄における労働や雇用、仕事をめぐる実践や課題、文化・社会的な意味や意義は、沖縄戦や米軍基地の変容とともに大きく変化してきた。近年、複雑化・深刻化の進む、沖縄県における労働問題や貧困問題の考察や問題解決を図るためには、既存の枠組みやカテゴリーを批判的に再検討しながら、研究者だけでなく、行政や労働組合、法曹界などの関係者らとともに、個別的・包括的視座から多角的に模索する必要がある。特に、沖縄県の女性に関わる労働・雇用、仕事の実態や課題は、日本本土とは異なる歴史的背景のために、より複雑で独特の特徴を包含しており、戦後沖縄をめぐる政治的・社会文化的な多様で重層的な変動を踏まえて丁寧に考察しなければならない。本研究は、これらの必要性を念頭に、日本本土と異なる戦後史を歩んできた戦後沖縄における労働とジェンダーに関する実践的・実証的・理論的な総合的研究領域を確立するとともに、脱軍事化過程における沖縄社会と労働・雇用の変容をめぐるジェンダー研究の展望を切り開くことを目指すべく、以下三点の成果を得ることができた。第一に、戦後沖縄における女性労働の中でも、「労働」ではなく、「犯罪」や「犠牲」などと見なされる傾向にあった米軍基地に関わる「売買春」をめぐる文化的・社会的意味の複雑性について占領初期の米軍資料から明らかにした。第二に、戦後沖縄の文化表象において本質化されがちなジェンダーの視点を再審しながら、戦後沖縄をめぐる労働とジェンダーをめぐる呪縛と主体化の複雑な関係性を文脈化することの重要性を示した。第三に、戦後沖縄における女性労働に関する各種資料の収集と国際福祉相談に関する資料集の作成を行った。
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