研究課題/領域番号 |
18K11913
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研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
石田 依子 大島商船高等専門学校, その他部局等, 教授 (40370027)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ワーク・ライフ・バランス / 男女共同参画 / 船員業 / 内航海運 / 外航海運 / 女性船員 / 海事史 |
研究実績の概要 |
昨年度は、二つの側面から女性船員の状況について調査研究を実施した。一つは、現代の女性船員の労働状況である。船員労働の特殊性は、内航、外航にかかわらず、数ヶ月に及ぶ勤務(乗船)後に、長期休暇が与えられるという「特殊な勤務形態」にあり、それは、乗船中は長期にわたってプライベート・ライフから断絶されることを意味する。つまり、女性の側から考えた場合、一般的な職業以上に、「船員業」においては、出産や結婚のために離職せざるを得なくなる確率が高いということだ。男性社会として発展してきた海運業界で、女性が船員として生きていくには相当の覚悟が必要になることは間違いないだろうが、海運業界における「男女共同参画」と言っても、どうしても女性が男性のルールに従わざるを得ない構造になっており、本来の「共同参画」になっていないということが指摘できるかもしれない。結局のところ、「特殊な勤務形態」である「船員業」において、いかにしてワーク・ライフ・バランスを実現させるかということが、女性雇用の促進のためにも、船員不足解消のためにも、重要なキーワードとなっていることが判明した。いかなる業種においても、個人がキャリアパスを目指していくには、ワーク・ライフ・バランスは重要であるが、海運業界においても、雇用される女性の側だけではなく、雇用する事業者にとっても、それを実現可能にすることは、将来的に性別にかかわらず優れた人材を確保する足がかりにもなり、それは結果的に船員不足の解消につながっていくと考える。そして、二つ目は、前述の内容を補強するという意味で、歴史的にどのような女性の船乗りが存在してきたのかということについて文献調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は主に我が国の海運業者についてのワーク・ライフ・バランスについての調査と、女性船員の歴史的背景についての調査を実施した。後者は昨年度のみの計画であるが、前者は計2年をかける予定であるので、今年度も引き続き、内航、外交を含めて、我が国の海運業者のワーク・ライフ・バランスについて調査研究を行っていく。昨年度は、本年度の調査に対しての前半部として意義ある調査研究であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で論じたように、船員のワーク・ライフ・バランスの充実を実現させることは、我が国の内航海運業界が発展していくためには必須事項であることは断言できる。しかし、すべての事業者にそれを求めるものではないし、またすべての事業者が実現することなど不可能であるということも忘れてはならないことが判明している。女性船員のワーク・ライフ・バランスを実現させるために考えられる方法として、調査を実施したところ、いずれも金のかかりそうな内容ばかりで、零細船社にはとっては別世界の話しのように聞こえるだろう。ここで、我が国の内航海運において、厳しい現実が突きつけられることになる。「人員不足」の観点から考えた場合、深刻な人手不足に陥っているのは大手船社ではなく零細船社であるので、「人員不足」の解消のために女性の雇用を促進させるという戦略は、内航海運業界においては極めて困難であることが明らかではないかということだ。内航海運業者だけにかかわらず、様々な業種で人員不足が深刻になっている昨今、女性の雇用は「男女平等」という綺麗事だけではなく、人手不足を解消するための苦肉の策という側面もあるのが実情である。その意味で、女性の活躍推進は人員不足の解消につながることも否定はできないが、特殊な業種とも言える「内航海運」においては、「女性雇用」を「人員不足」の解決策とするには限界があるということだ。内航海運の零細船社にとっての「人員不足」とは、ただ単に人を雇い入れることで解決できる「数」の問題ではなく、経済的・文化的・法的な側面で様々な問題が複雑に絡み合った問題であろう。今後の研究の方向性としては、「男女共同参画推進」の問題と「人員不足解消」の問題は切り離して考えるべきという点を基盤として推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費において、端数が生じたため。今年度の国内旅費において使用する予定である。
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