ビーム大強度化が進む加速器において、低放射化材料であるチタン製の真空ダクトの利用が進んでいる。本研究はチタン製の真空ダクト表面の酸化膜を除去し、露出したチタン自体が持つ気体吸着能を利用して、真空ダクト自身をゲッターポンプ化し、ビームライン全体を一様に超高真空にする開発を実施するものである。研究計画の基盤となる開発は、真空容器自身をゲッター化するアイデアの実証、表面酸化膜を除去する手法の確立、そして繰り返しの大気暴露に対する性能維持対策であった。 実証実験ではチタン製真空容器を直径約5mmの穴を介してステンレス製真空容器と接続し、ステンレス製真空容器のみターボ分子ポンプで真空排気した。通常は当然真空ポンプを取り付けたステンレス製真空容器の圧力が低いが、アルゴンスパッタリングによりチタン製真空容器の表面酸化膜を除去した。これにより真空ポンプをつけていないチタン製真空容器のほうがステンレス真空容器よりも低い圧力を得ることができ、真空容器自身の超高真空ポンプ化を明確に実証できた。 チタン製真空容器をゲッター化しても、電極を取り外すために大気暴露をすると、もとのの真空容器に戻ってしまう。そこで、無垢のチタン表面を低温ゲッター化材で保護コーティングすれば、大気暴露を繰り返しても通常のベーキングでゲッター機能を取り戻せると考えた。試験の結果、10回以上大気暴露を実施しても、性能の劣化は全く見られなかった。またこの手法によるコーティングは非常に密着性が高く剥離等は皆無であった。 ゲッター化と繰返しの性能維持が確認できたので、どのような気体に対して効果があるのかを調べた結果、真空容器内の水素を1/10に、水、一酸化炭素、二酸化炭素を1/50に低減可能であることがわかった。反応性ガスの低減は、今後需要が増加するECMOや自動運転装置等に必須であるMEMSへの適用が可能な将来性のある性能である。
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