研究課題/領域番号 |
18K11926
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
熊田 高之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, リーダー (00343939)
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研究分担者 |
阿久津 和宏 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 技師 (60637297)
鳥飼 直也 三重大学, 工学研究科, 教授 (70300671)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中性子反射率 / 核偏極 / 積層構造 / ソフトマテリアル |
研究実績の概要 |
中性子の水素核に対する散乱能は互いのスピンの向きに強く依存する。その性質を構造解析に用いたのがスピンコントラスト中性子散乱法である。これまで、スピンコントラスト法は小角散乱法と組み合せて複合材料のナノ構造解析に用いてきた。本科研費ではスピンコントラスト法を新たに中性子反射率法と組み合せることにより、多層膜試料の表面・界面構造の解明を目指して研究を行った。 小角散乱実験で用いてきた偏極媒体常磁性ラジカルTEMPOは揮発性が高く、中性子反射率実験に用いる薄膜試料では試料表面から容易に揮発してしまう。そこで新たに揮発性が低いTEMPOメタクリラートをもちいることによりフリーラジカルの揮発を防いだ。 水素核の偏極には動的核スピン偏極(DNP)法を用いた。J-PARC MLF既存の無冷媒型マグネットにマイクロ波ユニットを組み合わせてDNP装置として仕立て上げ、2.5 K,3.3 T条件下のスチレン-イソプレン共重合体薄膜で最大で熱平衡の200倍に相当する水素核偏極度21%を達成した。 J-PARC MLF BL17の偏極中性子反射率計SHARAKUを用いて同試料のスピンコントラスト中性子反射率測定を行ったところ、反射率曲線の傾き、フリンジの振動周期、全反射の臨界波数などに大きな変化が現れた。これらの変化を含めて正負偏極および無偏極時の3本の反射率曲線に対してグローバルフィットをかけることで多層膜における各表面・界面および膜厚の情報をより正確に決定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
薄膜試料でありながら3.3 T, 2.5 K条件下でバルク試料と同程度の水素核偏極度が得られた。無冷媒型マグネットを用いたこともあって、スピンコントラスト法の課題であった実験に費やす人的コストも大きく削減できた。 予想以上の核偏極度が得られたおかげで非常に顕著な反射率曲線の変化が観測され、これまでの無偏極実験ではフィッティングの任意性が高く構造決定に至らなかった多層膜試料でも、正負偏極および無偏極時における3本の反射率曲線のグローバルフィットによって複数のパラメーターを精度よく一意に決定することができた。 当初は、核偏極度の均一度が保証されず、構造解析手法としての信頼性に疑問符がつけられることもあったが、ポリスチレン単層膜を用いた追加実験を通じて偏極の均一性を実証した。これは、スピン拡散によって数百ナノメートル程度の偏極度の不均一性は常にかき消されることを実証したものである。これらの研究成果はJournal of Applied Crystallography誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、スピンコントラスト中性子反射率法を用いて実材料の膜構造解析を行う。現在、アート科学社とプラスチック食器用コーティング剤における界面構造について共同研究を進めている。 また、並行して反射率実験用核偏極装置の改良も進める。現在の核偏極装置はマイクロ波印加時の試料温度が著しいなど冷却能力が低く到達偏極度の低下を招いてしまっている。現在の装置より冷却能力、印加磁場ともに2倍に引き上げた装置開発を進めており、その導入によってこれまで以上の核偏極度を得て、構造解析をより正確に行えるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型核偏極装置がマグネットの不具合で稼働予定に遅延が発生して、そのインサートの開発に着手できないでいるためである。その新マグネットに合わせて反射率実験用試料セルを製作するとともに、核偏極度測定用NMR回路を製作する。
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