研究課題/領域番号 |
18K11930
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大森 千広 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 教授 (50213872)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射線損傷 / 半導体 / 窒化ガリウム / J-PARC / CERN / 加速器 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は大強度陽子加速器トンネル内で使用できるハイパワー半導体アンプの開発である。これまで強度の高い陽子加速器ではビーム損失等によって生じる放射線により半導体が損傷するため加速器トンネル内での半導体増幅器の使用は避けられてきた。我々はCERNと協力し、耐放射線性の高い半導体アンプの開発を行ってきた。2019年度は、これまでCERNおよびJ-PARCで実施した試験結果がIEEE-TNSに掲載された。この論文では、我々が開発した補償回路をシリコンMOSFET半導体に用いることで増幅器ゲインを安定化できることをしめした。この補償方式は一昨年末からの長期停止間にCERNのPSブースター加速器に導入され、来年以降のビーム運転再開で加速器運転を支えることとなる。PSブースター加速器への貢献は、昨年9月のCERN一般公開の紹介ビデオの中で日本の貢献として触れられている。 (https://www.youtube.com/watch?time_continue=4640&v=U3vutvLlo-8)。 また、昨秋から年頭にかけJ-PARC加速器において窒化ガリウム半導体の照射試験を行った。窒化ガリウム半導体は高出力の素子として注目されていると同時に、耐放射線性にも優れているとの報告も出てきている。本研究では当初中性子を含んだ混合照射として10kGyを目標と考えたが、照射試験の過程で窒化ガリウムは極めて安定していることが明確になり、最終的に30kGyを照射した。これにより窒化ガリウム半導体のゲートバイアス特性が極めて安定していることが確認できた。なお、J-PARC加速器内の照射エリアはCERNにある専用の照射施設の7倍の線量があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では半導体(MOSFET)の放射線影響を補償回路を用いて安定化させ、10kGyで使える半導体アンプの開発を目標としている。今回窒化ガリウムの半導体素子を入手し、30kGyの照射でも安定していることが分かった。窒化ガリウムでも高出力の素子が製造されており、この素子を用いた数kW級の高周波増幅器の設計が始まっている。これをもとに、2020年度は実際の増幅器としての動作状態での試験を目指すことができる可能性がでてきた。30kGyはCERN PSなど放射化の厳しい加速器の30年分の線量に相当し、安心して加速器トンネル内で使用するこができることとなる。当初の目標以上の耐放射線性能を持った高周波増幅器を実現できる可能性がでてきており、順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は本研究の最終年度である。2019年度に極めて優れた耐放射線特性を示した窒化ガリウム素子を用いて、高出力半導体増幅器の開発をおこなう。予算の用途として国際会議での発表等を当初予定していたが今回のコロナウイルスの状況と窒化ガリウム半導体の優れた性能から、耐放射線試験とそれに必要な半導体増幅器の製造に注力する。J-PARC加速器は世界唯一の30kGyの高線量を短期間に混合照射できる場所であり、窒化ガリウムを用いた高出力の半導体増幅器が極めて優れた耐放射線性と安定性を持つことを実証したい。 また、これまでに得られた窒化ガリウム半導体素子に関する結果および2020年度に得られるであろう高周波増幅器としての試験結果を踏まえ、この窒化ガリウム半導体を用いた高出力高周波増幅器と別途開発中の高性能な高周波空洞を組み合わせた画期的な高周波システム開発についての研究費の申請を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品のいくつかが考えていた価格よりも低かったために生じた差額を2020年度に使用することとしたため。
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