研究実績の概要 |
通常の半導体アンプは100Gy程度で故障する。本研究は通常の100倍の線量である10kGyの環境下で使用できる半導体アンプを開発することを目的としている。これはスイスのCERN研究所との共同研究である。LHCと呼ばれる巨大加速器は現在高輝度化に向けた加速器開発が進んでいる。これに必要な入射器の加速システムの高性能化が本研究のターゲットである。我々は放射線の影響を補正する補償回路を組み込んだ半導体アンプを開発し国内外の照射施設を用いて約10kGyの線量を与え実証試験を行った。この成果はIEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE, VOL. 66, NO. 10, OCTOBER 2019に掲載された。この方式を用いた半導体増幅器が量産され、昨年にはPSブースター加速器に設置されビームエネルギーを1.4GeVから2GeVに引き上げることに貢献している。 さらに我々はバンドギャップの広い窒化ガリウム半導体に着目し、ごく最近開発された増幅器用素子を用いて増幅器を製作し、J-PARCでの混合照射を行った。混合照射とはガンマ線、荷電粒子、中性子など複数の種類の放射線照射である。混合照射は実際の放射線環境に近いだけでなく、近年報告されている相乗効果の点からも必要となる。窒化ガリウム半導体は補償回路なしでも高い線量に耐えることが示唆されており、この結果は補償回路同様に査読論文として発表する予定である。また、この窒化ガリウム半導体アンプも改良後CERNのPS加速器の加速システムのフィードバックアンプとして活用することが検討されている。 本研究ではCERNの開発した放射線モニターを国内に導入し荷電粒子、ガンマ線、中性子などの線量測定に使用している。このモニターを用いてKEKBやITERなどのための試料の耐放射線性測定にも貢献している。
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