本年度はJAEA、豊田中央研究所と共にに取り組んだ燃料電池触媒層中の水のダイナミクスについて論文化した。燃料誌触媒層は白金担持カーボン、プロトン伝導性電解質膜により構成され、プロトン伝導性と酸素透過性という相反する性質の両立が燃料電池の性能向上に寄与する。そのためには、プロトンや酸素の移動機構を理解することが重要である。本研究では中性子準弾性散乱を用いて、中性子が得意とするプロトン(水)のダイナミクスの解明に取り組んだ。試料は相対湿度100%雰囲気下で吸着させた触媒層である。実験の結果、触媒相中の水は緩和時間の早い方から順に、制限空間水、ジャンプ拡散水、スルホン酸基と強く相互作用して装置の分解能の範囲で止まってみえる束縛水の3種類に分けられた。これらの水は温度を下げるとともに、束縛水へと変化していき、ジャンプ拡散水が低温でも観察されたこと、長距離拡散運動であることからプロトン伝導に寄与していると考えられる。一方で、得られた拡散係数の値はバルクの電解質膜中の水と比べて大きな差は見られなかった。このことから、白金担持カーボンの水に対する影響はプロトン伝導性電解質により遮蔽され、電解質膜中の水と似たような結果を示した考えられる。 一方で、分子動力学計算についてはいまだに十分な進捗を得ることはできず、引き続き計算方法などの習熟に取り組んでいきたいと考えている。しかしながら、分子動力学計算の流れなどはつかむことができるようになり、自分の理解の幅を広げることはできた。
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