研究課題/領域番号 |
18K11934
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
百合 庸介 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線高度利用施設部, 主幹研究員(定常) (90414565)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | イオンビーム / 多重極電磁石 / 非線形集束 / ビーム強度分布 / サイクロトロン |
研究実績の概要 |
多重極電磁石がもたらす非線形力を用いた荷電粒子ビームの強度分布変換については、これまで主に8極電磁石を用いて横方向強度分布を均一化できることが知られていた。本研究は、これを拡張・一般化して、双極や4極電磁石の線形力に基づく従来手法の限界や制約を克服し、多様なビーム強度分布変換や照射野形成の実現を目指すものである。初年度は、その例として、ビーム軸中心付近の強度に比べて外側の強度が非常に高い“中空ビーム”の形成を実証することを目指して研究に着手した。 実験的研究では、量子科学技術研究開発機構高崎研のイオン照射研究施設TIARAにおいて、8極電磁石を用いたビーム形成実験を実施した。AVFサイクロトロンから取り出された10MeVの陽子ビームを、2台の8極電磁石を含むビーム輸送系に導いて非線形に集束することにより、端部に鋭いピークを有する中空ビームを形成することができた。従来の均一化の場合とは異なり、8極電磁石によって水平・鉛直方向の粒子振動を結合させる新たな光学系により、8極電磁石の強度に応じて、楕円形や四角形等、様々に断面形状が制御できるというユニークな特徴があることを明らかにした。並行して、理論解析を実施し、非線形力を受けたビームの運動の様子を明らかにした。 高エネルギービームを中空化する手法としては、プラズマレンズを用いる方式が開発・研究されているが、パルス高電圧によるプラズマ生成のタイミングを短バンチビームの時間幅と同期・整合させる必要があるのに対して、多重極電磁石を用いる本手法は、非線形力の生成源が静磁場であることから、イオン種やエネルギー、時間構造等の制約が弱く、様々なビームに簡便に適用できるというメリットがある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、当初、非線形集束による中空ビーム形成等に向けて、シミュレーション研究を中心に実施する計画であったが、ビーム実験を行う加速器の利用運転期間が限られていたことから、計画を一部前倒しして研究を進め、実験的研究にて一定の成果が得られたため。
|
今後の研究の推進方策 |
中空化ビーム形成についての研究を継続し、そのビーム特性を詳しく調べるとともに、そのようなビームの利用を目指して、課題の抽出及びビームサイズや形状の調整を検討する。また、非線形集束による、他の強度分布の形成の可能性についてシミュレーションにより探る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、シミュレーション研究に必要なソフトウェア等の物品の購入を取り止めたためである。次年度は、当初の実施計画の通り、実験的研究に並行して、シミュレーション研究を進めるとともに、成果発表を積極的に行う。
|