研究課題
本研究は、多重極電磁石が荷電粒子ビームに及ぼす非線形力に基づき、双極や4極電磁石の線形力による従来手法では実現困難な多様なビーム強度分布変換や照射野形成の実現を目指している。8極電磁石を用いた横方向ビーム強度分布の均一化に関して、より高次の磁場によるビーム品質の改良を検討した。量研高崎研サイクロトロンのビームラインパラメータを想定したトラッキングシミュレーションを実施した結果、8極と12極電磁石を併用することにより、分布全体を均一化できるばかりではなく、非線形集束に起因するビーム損失を低減できる可能性があることが分かった。前年度に実証した強度分布の中空化に関しては、その特性(エミッタンス依存性等)を実験的に調べた。エミッタンスが大きい場合、ビーム端部に生じるピークの強度は低下し幅は太くなる傾向があった。他方、中空ビームのサイズつまり端部ピークの位置はほとんど変化しなかった。本結果が理論解析やトラッキングシミュレーションの結果と矛盾しないことを確かめた。中空ビームの照射利用を見据えて、標的での多重散乱による中空強度分布の変化をシミュレーションにより調べた。具体的には、高エネルギービームによる低速ミューオンの効率的な生成・収集を目標として、長い円柱状標的(グラファイト)の側面近傍に沿って392MeV陽子の中空ビームを照射することを検討した。設計・実証したビーム光学系では、標的近傍でのビーム強度分布やサイズの変化は十分に小さいことを確かめた。また、標的内では多重散乱により徐々にエミッタンスが増大し中空分布の端部ピークは滑らかになるものの、20cm下流の標的出口面でも中空分布が概ね保たれることが分かった。このことから、非線形集束により形成した高エネルギーの中空ビームが二次粒子生成等のための長い標的への照射に利用可能であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
前年度の実験的研究において、8極電磁石を用いてビーム強度分布を様々な断面形状で中空化できることをいち早く実証できたため、本年度はそのビーム特性の解明やビーム利用を目指した基盤的な実験および理論研究を実施することができた。当初の計画に従っておおむね順調に研究を進めることができ、論文発表等の成果も創出することができた(さらに論文を学術誌に投稿中であり、特許の出願も準備中である)。
ビーム強度分布の中空化に関しては、これまで主として用いてきた8極電磁石とは磁場の次数の偶奇が異なる6極電磁石にも着目してビームの振る舞いや特性を明らかにする。また、ビーム損失の低減といったビーム品質の改善を目指して、ビームの初期条件を制御することによるビーム特性への影響を実験的に検討する。さらには、中空化や均一化に限らない有用なビーム照射野形成やビーム強度分布変換の可能性を検討したい。
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、年度末に開催が予定されていた学会が中止され参加できなかったためである。次年度は、当初の実施計画の通り、非線形ビーム集束・形成に関する実験的研究を主として行うため、ビーム計測のための備品や消耗品を購入する。また、最終年度であり、成果発表に係る支出も予定している。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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