研究実績の概要 |
本研究では、金属イオン注入を利用したカーボン前駆体高分子へのnmオーダーの粒径を有する金属微粒子の導入技術を確立するとともに、これを利用した、酸素還元触媒性能の発現に不可欠な、炭素の一部が窒素に置換された乱層構造を有するグラファイト構造を合成する技術を確立することを目的としている。本年度においては、金属微粒子の導入技術を確立することを目的として研究を進めた。 カーボン前駆体高分子であるフェノール樹脂に対して真空中室温において100 keV Feイオンを1e+14, 1e+15, 1e+16 ions/cm^2注入し、窒素雰囲気下800℃において炭素化処理を行なった後、Fe粒子およびグラファイト構造の形成の様子について調べた。その結果、1e+14, 1e+15, 1e+16 ions/cm^2の注入量に対し、平均粒径がそれぞれ8±2, 22±7, 26±9 nm のFe粒子が生成しており、イオン注入量によって粒径を制御しながら、Fe粒子を導入できる可能性を見出した。また、1e+15 ions/cm^2以上の注入量において、Fe粒子の周辺に乱層構造を有するグラファイト構造が形成されていることを明らかにした。非注入試料および1e+14 ions/cm^2注入試料においてグラファイト構造の形成が確認できなかったこと、また、フェノール樹脂に800℃において2 MeV電子線を照射した場合でもグラファイト構造が形成されなかったことから、グラファイト構造の形成には、nmオーダーの粒径を有するFe粒子が必要であるとともに、イオン照射による高エネルギー付与に伴うカーボン前駆体高分子の十分な架橋反応が必要であることが分かった。
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