研究実績の概要 |
本研究では、金属イオン注入を利用したカーボン前駆体高分子へのnmオーダーの粒径を有する金属微粒子の導入技術を確立するとともに、これを利用した、酸素還元触媒性能の発現に不可欠な、炭素の一部が窒素に置換された乱層構造を有するグラファイト構造を合成する技術を確立することを目的としている。昨年度までに、鉄(Fe)イオン注入を利用したFeナノ粒子(平均粒径:19 nm)導入が、カーボン前駆体高分子の炭素化過程における乱層グラファイト構造の形成に効果的であることを明らかにした。そこで本年度は、窒素を分子構造中に含むカーボン前駆体高分子であるポリアクリロニトリルに対しイオン注入・炭素化処理を行ない、粒径の小さいFeナノ粒子の導入が触媒性能に与える影響を評価した。 Feイオン注入条件:100 keV, 1e15 ions/cm2、炭素化条件:800℃, 窒素中, 1hにて合成したカーボン材料(イオン注入試料)、イオン注入法とFe濃度が等しい塩化鉄(0.35 wt% Fe, Fe平均粒径:34 nm)を添加したカーボン材料(塩化鉄添加試料)、Feを全く添加しないカーボン材料(未照射試料)を準備し、それぞれの酸素還元反応における触媒性能を0.5 M 硫酸中、回転電極法により評価したところ、酸素還元電流が観測される電位が、未照射試料<塩化鉄添加試料<イオン注入試料の順序となり、粒子径の小さいFeナノ粒子の導入が触媒活性なグラファイト構造の効率的な形成に有効であることを明らかにした。 本研究の成果は、高性能なカーボン触媒の合成に可能性を示したものであり、酸素還元反応を利用する燃料電池向け電極触媒開発への応用展開が期待される。
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