研究課題/領域番号 |
18K11939
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
西中 一朗 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (70354884)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | α放射性同位体 / 核医学利用 / アスタチン / ラドン / ジェネレータ / トレーサー |
研究実績の概要 |
医療用α放射性元素At(アスタチン)-211の新しい供給法となるRn(ラドン)-211/At-211ジェネレータを一般のRI(ラジオアイソトープ)使用施設内のフード内で使用可能にするための研究開発を行った。具体的には、「小型ジェネレータ装置の設計、製作、性能試験」についての研究開発、ならびに「At-211トレーサー溶液調製」についての研究開発を行った。 「小型ジェネレータ装置の設計、製作、性能試験」の研究開発では、①照射済みBi(ビスマス)標的溶解部の小型化、②ポンプを使わないHe気流制御、これらの機能を取り入れた新規小型ジェネレータ装置の試作機を設計・製作して、性能試験を実施した。 「At-211トレーサー溶液調製」の研究開発では、①溶媒効果、②超音波洗浄効果について性能試験を継続して実施した。この研究開発では、アスタチンの特異な化学的性質を調べることが必要であり、その観点から、溶存アスタチン化学種の高精度分析を可能にした高速液体クロマトグラフ(HPLC)化学分析装置を用いて、At化学種の酸化・還元についての知見を得るための実験を行った。 先行研究から引き続き、Atの簡易乾式化学分離法によってアスタチン分離精製する過程を詳細に調べることでアスタチンの特異な化学的性質を明らかにした。アスタチンの溶存化学種、熱分離特性などの基礎科学的特性に関する研究成果を雑誌論文と学会発表を通して発信した。 当初の計画にはなかったが、共同研究によって、α放射性核種分析法と分析装置についての研究成果が得られたので、その成果を雑誌論文として発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の影響で、加速器運転が制限された。加えて、加速器デバイスの故障による運転中止により、予定のマシンタイムを遂行できなかったため、進捗状況はやや遅れている。 「小型ジェネレータ装置の設計、製作、性能試験」の研究開発において、当初計画になかった①ターゲット溶解部の小型化、②ポンプを使用しないHe気流制御、これら新たな機能に基づく新規小型ジェネレータ装置試作機の設計、製作、性能試験を実施した。その結果、先行研究のジェネレータ装置と同等の優れた分離性能、取扱い安全性をもつことを確認した。当初計画になかった発想を実現化するために、試作機の製作、性能試験は遅れたが、本研究の達成目的はほぼ実現できた。 「At-211トレーサー溶液調製」の研究開発では、①溶媒効果、②超音波洗浄効果について、性能試験を継続して実施した。回収率と副生成物であるPo-207除去率についての詳細なデータが取得できた。また、Po-207除去については、共同研究先の金沢大学により陽イオン交換樹脂を用いて、分離係数35に到達する優れた分離方法が開発された。この技術を取り入れることで有用なAt-211トレーサー溶液調製が実現できる見通しがついた。 アスタチンの特異な化学的性質を調べるために開発してきた薄層クロマトグラフ(TLC)分析、ならびにHPLC分析により、At溶存化学種の酸化・還元についての詳細なデータが得られた。加えて、先行研究で開発した簡易乾式蒸留分離法でアスタチンを分離精製することを通して、「At溶存化学種の同定」、「熱分離特性」について、アスタチン化学特性を明らかにした。その成果を3報の原著論文と4件の学会発表にて発信した。
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今後の研究の推進方策 |
小型ジェネレータ装置の試作機の性能試験を継続し、分離の高効率化、希ガス放射性Rn-211の取扱い安全性確認のためのデータを取得し、性能評価する。その成果に基づいて、より実用的な装置を製作し、性能試験を行う。 ジェネレータで調整したAtトレーサー溶液のHPLC分析を実施し、その分析結果に基づいて、Atトレーサー溶液調製(溶媒液性、液量、温度)を最適化し、回収率向上を目指した研究開発を進める。 これまでの研究開発で確立したTLC、HPLC分析法を駆使して、アスタチンの特異な化学的性質を基礎化学の観点から明らかにする。加えて、乾式蒸留分離での熱分離特性の観点からもアスタチンの化学を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初予定していた小型ジェネレータ装置試作機の設計を大幅に変更して、構造と操作性を簡素化して経済的な試作機を製作することができた。くわえて小型グローブボックスを購入しなかった。また、新型コロナウイルス感染症の影響で国際会議での成果発表ができなかった。 (使用計画)試作機の性能試験結果に基づいて、より実用的な小型ジェネレータ装置を作製する。作製費用、試験研究費として用いる。性能試験結果に基づいて、装置の改良、更新、その後の性能試験のために使用する。国際学会で成果発表できない場合、既に発表した原著論文のオープンアクセス化に使用する。
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備考 |
発表者;西中一朗 発表標題;謎めいた元素「アスタチン」の化学を探る 学会等名:QSTサイエンスフェスタ2020 発表年:2020年
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