本研究では、高エネルギーイオンビームを用いたマイクロ加工技術を駆使し、表面反射が限りなくゼロに近い、完全黒体を製造する技術を開発する。これにより分光分析や熱画像検知など、光計測技術の格段の性能向上に貢献する。 本研究で克服すべき技術課題は、1.柔軟で接触耐性のある完全黒体シートの開発・量産方法の確立と性能評価、2.高耐熱性の完全黒体シートの開発、3. 究極の低反射率≦0.1%達成へ向けた性能の向上、の3つである。令和2年度は、特に可視域も含めた究極の低反射率≦0.1%(即ち黒い人工物世界一レベル)の達成へ向け、性能の向上を図った。また、各種応用展開も検討した。 イオンビーム加工により形成したマイクロ空洞構造を原盤として、10 cm角程度の大面積な黒体シートを製造する技術(令和元年度実績)に関し、積分球を具備したFTIRによる評価結果:中赤外域における半球反射率0.002以下(0.998以上の吸収率(放射率))、及び高い面内均一性について、査読付国際誌に報告した。この黒体シートを室温中に置き、サーモグラフィカメラで見た場合にも、周囲の背景放射の映り込みの影響を受けず、均一な赤外線放射を示していた。このことから、黒体シートはその温度だけで赤外線放射量が決まる基準(平面黒体炉)となり、サーモグラフィカメラの温度表示値を精確に調整するために利用可能である。 可視域においては、これまで半球反射率が0.3 %から0.5 %に留まっていたが、理論上は可視域でも0.1 %以下が達成可能なことを確認した。そこで、これまでの黒体シートの特性を詳細に調べたところ、媒質内での散乱が反射率低減を制約していることが示唆された。この散乱を抑制することで、超広帯域に光反射率0.1 %以下の高耐久な「完全暗黒シート」が実現できる見込みが得られた。
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