本研究は,高齢社会を迎えた地域の住民が,災害時に移動困難者を搬送できる仕組みを,地域住民自らの手で作ることを目的とした.背負搬送具の設計,組立手引書の作成,手引書の検証,防災意識の変化の検証を計画した. 背負搬送具の設計は,自作を前提としているため,入手が容易な市販の汎用部品を使用した.本研究以前の背負搬送具は鉄製パイプを使用していたが,アルミニウム製部材へ変更,形状も見直し,軽量化した.2022年度には,新たに調達可能になった新部品により大きく形状を改善した.2023年度には,強度計算による形状見直しを重ね,補強部材の追加,一部フレームの断面形状の変更,脚部長調整装置の見直しを行なった.最終的に体重80kgの人まで安心して搬送することができるものとなった.特に背負う動作,降ろす動作が楽にできるのが特徴である. 組立手引書は,写真と文字情報を組合せ,初版を作成した.2版では,写真をイラスト化し,文字情報は不足のないようにした.3版では,文字情報量を最適化し,イラストに組み立て時の手を加え改善した.4版では,イラストをCADによる等角図に変更した.2023年度の第5版では,背負搬送具の形状変更に対応,また組み立て時の誤解を極力削減するため見直し,組立手引書を完成させた.一台の背負搬送具組立に要する時間の平均値は,初版では約2時間20分であったが,最終版では約59分となった. 研究期間中コロナ禍となったため,2023年度まで期間延長したが,地域住民による組立,使用体験は実施できなかった.そのため,自作することが防災意識へ与える影響を評価することはできなかった.しかしその間,本体の設計と組立手引書の改善を重ね,この背負搬送具を導入した高齢者団体はすでにある.自作式であるので導入しやすい.普及が今後の課題である.
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