研究課題/領域番号 |
18K11957
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
原田 泰 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (00272188)
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研究分担者 |
宮田 義郎 中京大学, 工学部, 教授 (00239419)
横溝 賢 八戸工業大学, 感性デザイン学部, 准教授 (10707243)
元木 環 京都大学, 学術情報メディアセンター, 助教 (80362424)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デザイン実践の記録 / デザインプロセスの視覚化 / デザイン態度の変化 / 一人称研究 / 地方都市型デザイン |
研究実績の概要 |
今年度はデザインプロジェクトの実践とそのプロセスの記録、そしてこれらを研究チームで共有し当事者デザインの理論化に向けた議論を進めた。 実践と記録については、函館、八戸、豊田、京都でそれぞれれ進めている。函館ではデザイン初学者が地域コミュニティや伝統工芸工房に入り込んでデザインプロジェクトを進めていく過程を一人称視点で記述するアプローチを試みた。八戸では地域コミュニティに関わりある人々の活動報告・発表会という形式で、当事者としてデザインプロジェクトの内容を語っていただき、その内容を記録することで実践例の収集を試みた。豊田では、学生の学びと地域コミュニティデザインを結びつけ、学びの中での学生たちの態度の変化を追った。駅前施設のLED装飾、地域農家との協働、海外学生との交流と里山体験など、学生たちがホストとなり活動を推進しながらモノづくりを行った。京都では博物館展示を題材に、様々なメディアを用いて記録方法の模索を行なっている。中でも8K映像(解像度7,680×4,320画素)を用いた展示設営の記録では、博物館空間内の各所で進む活動のディテールが一つの画面の中に克明に記録されており、このメディアの普及がデザインプロセス研究の可能性を広げいく可能性を実感できた。 各地でのデザイン実践は一見すると一貫性のないように見える。しかし我々の研究は、人々の営みを全てデザインと捉えることから始めており、これらの活動の中に埋め込まれている考え方や方法の共通性から、新世代のデザイン理論を導き出すことが目的である。 これらの実績を持ち寄り、複数回の研究会を開催した。その中で、縄文時代のような自給自足社会をヒントとした地域(特に地方)コミュニティのあり方とそこに必要なデザインについての議論が深まった。また、このプロジェクトの活動プロセスそのものを資料化するために、学会特集号の企画、編集作業を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は、「当事者デザイン」の枠組みを明らかにするために実践を行いながら、デザインラボの有効性と課題、デザインプロセスの記録・記述方法、これら全体をデザイン研究として記述し、デザイン知が循環する方法を明らかにすることである。具体的には函館、八戸、豊田、京都の地域・組織資源を活用したデザイン活動実践において 1)デザイン専門家が他分野専門家との協働を前提に「よそ者」としてコミュニティに入り込み、2)居場所作りの段階からデザインを推進するコミュニティの一員として活動し、3)成果実装と態度、知識、技術、メタ認知力、情熱などを捉える。 1)については、この研究費の絵支援を受け利前から各地域での実践を続けている。今年度は、本研究テーマに即して実践と観察を行うことができ、結果として多くの実践例の収集に繋がった。デザイン成果物とその説明、デザインプロセスの記述とその手法、一人称研究アプローチによるデザイン担当者の変化や成長など、データレベルの資料は順当に蓄積されている。これらを、デザインラボとしてどのように活用していくべきかについてが、今後の課題である。これらの素材として、2)3)についても多くのデータを得ることができた。2)については、函館での実践に置いて、卒業研究、修了研究と連動させてデザイン初学者の営みを視覚的な資料にまとめることができた。3)については、デザインプロジェクトとしては一旦完了したものもいくつかあり、ここから分析と考察を行って、理論化を進めようとしているところである。最終成果に向けては、日本デザイン学会特集号を想定して、研究プロセスの公開についての準備を進めてきた。その結果として、2019年度の出版計画に採択された。
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今後の研究の推進方策 |
第一の目標「デザイン専門家が他分野専門家との協働を前提によそ者としてコミュニティに入り込む」という点については初年度に収集した実践例を振り返りながら、共通性、独自性などの特徴を抽出し、デザイン原理や方法論としてまとめていく。 第二の目標、「居場所作りの段階からデザインを推進するコミュニティの一員として活動する」については、ここまでかたちづくった実践の中での観察と記録の方法を他のデザインプロジェクトでも応用して、表現方法の精査を行う。表現方法をパターン化できれば、複数のデザイン活動の比較が可能になり、デザイン手法の体系化に寄与できる。複数のデザイン活動とは、デザイナーの異なる同時多発的なプロジェクトに限らず、あるデザイナーが継続的あるいは連続的に進める複数のプロジェクトも含まれる。前者は実業界では差別化やマーケティングという視点で多く取り上げられるが、後者は作家論的な視点以外ではあまり重視されていない。さらにプロジェクトの関係性を時間軸で捉えると、始まり方と共に終わり方についても、実践や調査の必要性が見えてきた。本研究では、特に後者にデザイン研究の可能性を見出しており、これを捉えることでコミュニティやデザインプロジェクト、さらにはデザイン駆動の社会を持続させていくための可能性や方法論を展開できると考えている。この視点を中心にデザインラボ活動のあり方を呈示していきたい。 第三の目標である「成果実装と態度、知識、技術、メタ認知力、情熱などを捉える」については、一人称研究の方法をとり入れるため、研究メンバー内での議論や社会学、認知心理学などで質的研究に関わる研究者の協力を得て、データ収集と分析を進めていく。ここにあげたキーワード群は、客観性に囚われた調査や統計的手法では捉えられない。新たな抽出方法を見出すことが、残りの時間の中での課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度のメインの活動と考えていた研究会の開催と学会参加が、地震の影響で中止、延期となったため、プロジェクトの進め方の優先順位が前後してしまい、予算の執行に変更が生じ次年度仕様に回る額が生じている。大阪府北部地震(2018年6月18日)の影響で研究メンバーの学会参加の見送り、同時開催を計画していた研究会の中止により、旅費と謝金、記録メディア制作費を執行できなかった。また、北海道胆振東部地震(2018年9月6日)の影響で、函館での開催を計画していた研究会を延期としたため、ここでも旅費、謝金、印刷費などの執行ができなかった。研究の推進については、別途、研究メンバーのみで集まるなど、遅れの出ないように実践やコミュニケーションを進めてきたため、前述のような進捗状況となっている。初年度に中止し、延期となった活動は、次年度に改めて計画および実施の準備をすすめている。
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