研究課題/領域番号 |
18K11958
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研究機関 | 秋田公立美術大学 |
研究代表者 |
天貝 義教 秋田公立美術大学, 美術学部, 教授 (30279533)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 応用美術 / 機能主義デザイン / 戦後デザイン / グッド・デザイン / ジャパニーズ・モダン / 勝見勝 / 剣持勇 / 工芸ニュース |
研究実績の概要 |
平成30年度は研究計画にもとづき第二次大戦直後の昭和20年代前半(1940年代後半)から昭和40年代後半(1970年代前半)の日本において発行された『工芸ニュース』ならびに『リビングデザイン』などデザイン専門雑誌を中心に文献資料の収集をおこなった。収集した主要な文献については、所属する秋田公立美術大学の附属図書館において広く一般への展示公開を解説文をつけておこなった。また『工芸ニュース』を中心に、主要な論説と記事について、終戦直後に応用美術の思想がどのように理解されていたかという観点にもとづき、その内容分析と考察をおこなった。そのさい、とくに1940年代後半から1950年代全般までのデザインをめぐる議論について、デザイン理論家の勝見勝、デザイナーの剣持勇らの論考と記事に注目し、理論的側面とともに実践的側面からの考察をおこなった。 以上の研究の結果、終戦直後の1940年代後半には、建築をふくむ幅広いデザイン分野において、機能主義が中心になることが主張されるとともに、「工芸」から「工業デザイン」もしくは「インダストリアル・デザイン」への転換が強調されたことが明らかになった。平和条約締結後の1950年代になると、剣持勇と勝見勝らがアメリカを模範として日本のグッド・デザイン運動を指導し、そのなかで歴史様式にもとづく応用美術からの脱却が主張され、同時に戦前の冷たい画一的な機能主義のデザインの克服が主張されたことが明らかになった。しかしながら、その一方で、日本の伝統的造形にみられる美的価値が積極的に評価され、戦後日本のモダン・デザインとして「ジャパニーズ・モダン」とよばれるデザインの実現が目指されていたことも明らかになった。以上の研究成果を第11回ICDHS:国際デザイン史・デザイン学会議(於バルセロナ大学)において研究発表し論文としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度の研究を通じて、1950年代の日本におけるデザインをめぐる議論の特徴として、歴史主義的な応用美術からの脱却と同時に、画一的な機能主義デザインの克服を通じて新しいデザイン様式が目指されていたことが明らかになった。その一方で、出原栄一が指摘したように、装飾を積極的に評価する反機能主義的な新装飾主義と呼べる動向があったことも明らかになった。また、こうした反応用美術ならびに反機能主義が叫ばれるなかで、ヨーロッパならびにアメリカ合衆国の市場で受け入れられる日本的なモダン・デザインとしての工業製品の実現が工芸指導所によってすすめられたこと、歴史的かつ伝統的な日本の実用的な生活用品のフォルムやテクスチャーにみられる「簡素さ」「明晰さ」「純粋さ」などの美的価値を、いわゆるジャポニカ・スタイルではなく日本独自の新様式を実現するものとして積極的に評価する主張があったことが明らかになった。こうした日本の伝統的かつ歴史的な実用品にみられる美的価値にもとづいて、ジャパニーズ・モダンと呼ばれる日本のモダン・デザイン・スタイルの確立をめざした1950年代における主張は、平成31年の計画において考察対象にしていた、阿部公正・小池新二らによってまとめられた英文の日本デザイン史であるJAPANESE DESIGN IN PROGRESS(出版年不明)にみられる主要な論点であると思われ、さらに平成32年度の計画目的において考察すべき問題としていた戦後日本における機能主義と伝統の関係を特徴づけるものであり、昭和戦後期日本のモダン・デザイン理念を特徴づけるきわめて重要な主張であったと考えられる。以上のことから平成30年度の研究を通じて、平成31年度ならびに平成32年度の計画目的の一部が先取りして達成されたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、昭和35年(1960)に東京で開催された日本最初のデザインに関する大規模な国際会議となった「世界デザイン会議(Wodeco 1960: World Design Conference in Tokyo 1960)」における、建築とクラフトをふくむ広範囲なデザインをめぐる国際的な議論についてとりあげる。そのさい、平成30年度の研究で明らかになった新装飾主義といえる動向の登場という観点と、反応用美術ならびに反機能主義とよべるモダン・デザインの振興運動やアメリカを模範としたグッド・デザインの振興運動にみられた伝統的な日本的美的価値の積極的な評価という観点をふまえ、デザイン専門雑誌の論説・記事を手がかりにしながら、1960年代から1970年代初頭の工業化が著しく進んだ日本経済の高度成長期におけるデザイン理念の多様化の進展と背景についてデザイン史的に明らかにしてゆくこととする。1960年代から1970年代のオイルショック以前の時期は、『工芸ニュース』などの戦後のデザインの理論と歴史を指導してきたデザイン専門雑誌が休刊してゆく一方で『デザイン批評』などが短期間ながらも新たに発行され、デザインをめぐって「戦後デザインの終焉」あるいは「グッドバイ・グッド・デザイン」などの表現によって特徴づけられる議論が登場した時代でもあった。平成31年度は、平成30年度に収集したデザイン専門雑誌にくわえて「世界デザイン会議」に関連する雑誌・文献資料等とならんで『デザイン批評』などの文献資料を収集してゆき、その主要な論説と記事について、上記の観点から内容分析と考察をおこなうとともに、関連する美術館・博物館等の資料調査をおこなうこととする。その成果については所属する学会等において研究の発表をおこなってゆくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、旅費、その他に関する実際の支出額が、当初の見積もり金額よりも少なかったために次年度使用額が生じた。
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