本年度は健康上の理由から主として研究テーマに関連した情報を文献を中心にして収集し、その分析と要約をおこなった。そのさい、特に戦後日本で発行されたデザイン専門雑誌に注目して、1950年代から1990年代までのデザイン概念についての議論のながれを整理した(「工芸ニュース」、「リビングデザイン」「グラフィックデザイン」「デザイン批評」など)。その結果、終戦後の1940年代の「工芸の再建」から1950年代の「グッド・デザイン運動」によるモダン・デザインの啓蒙と普及へと進んだ日本のモダニズムのデザインは、デザイン分野の総合性をめざしながら、1960年の世界デザイン会議の開催および1964年の東京オリンピックの開催を通じて国際化してゆく一方で、経済の著しい成長のもとでの大量生産ならびに大量消費に対応して多様化し、1980年代に、いわゆるポスト・モダンのデザインヘと変わってゆくことが明らかになった。 モダニズムのデザインからポスト・モダニズムのデザインヘの変化のプロセスについて、本研究では、特に1960年代後半からのコンピュータ・テクノロジーとプログラミング言語の発展に焦点をあて、そのデザイン史的ならびにデザイン美学的な意義を、美学者の川野洋が、その著『ネットワークの美学』(2009)で提出した「ポストモダンの世界像」を手がかりにしながら考察し、秋田公立美術大学紀要第10号に、「『生成美学』に関する実践的研究」と題して発表した。
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