研究課題/領域番号 |
18K11962
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
宮本 佳明 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (10278559)
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研究分担者 |
笠原 一人 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 助教 (80303931)
鎌田 嘉明 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 研究員 (80817982)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コンバージョン / 採算性 / 市場性 / リノベーション / 保存 / 再生 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、コンバージョン(建物の用途転用)の手法に採算性という観点を加えて理論構築を行うことにある。建物所有者の属性(公共か非公共か)と利用対象者の属性(特定か不特定か)に基づく4分類のうち、本年度は特にタイプⅠ(公共×特定)について設計実務を通したケーススタディが大きく進展した。 タイプⅠに分類される旧八幡市民会館(福岡県北九州市)は、長年にわたる保存運動が身を結び昨年度に市立埋蔵文化財センターへのコンバージョンが決定したが、本年度は基本設計に係る公募型プロポーザルが実施され研究代表者を中心としたチームが最優秀者に選定された。劇場を博物館へとコンバージョンする世界で初めての例であり、近現代建築保存の方法としてモデルケースのひとつとなることが期待されている。本年度末段階で基本設計実務が進行中である。また工事費予算額の13億5100万円(税抜)を元に経済効果の算定を行った。その結果、市内で生産が増加する第1次間接効果が3億8269万8000円、市内の消費を喚起する2次波及効果が2億5921万4000円、合計6億4191万2000円の経済効果を生むことが明らかになった。 タイプⅣ(民間×不特定)に分類される宝塚ホテル旧館(兵庫県宝塚市)については、昨年度旧館をゲートハウス的に保存するために、その原資とするべくa)高層住宅タワー2棟を増築する案と、b)ダンスホール+高層住宅タワー1棟を増築する案の2つの保存活用案まとめた。本年度a)案について、市への政策提言を行うと共に、ホテルを運営する民間事業者に提示するに至ったが、本年度末段階で具体的な進展は見られない。同ホテルは別敷地に建設中の新館へ移転開業を控え、本年度末には旧館を含むホテル全体の営業を停止した。 一方の理論構築については公益性や文化的価値といった無形の採算性を数字(収益額)に落とし込むための計算手法の開発が遅れており、採算性について全てを算定するところまで辿り着けていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の計画通りに研究を推進出来た。特に旧八幡市民会館を埋蔵文化財センターへとコンバージョンする設計実務の進捗が順調であった。以下がその設計コンセプトである。 村野藤吾のデザインを極力オリジナルのままで保全するために、外壁だけではなく、特徴的なホワイエや階段、ホールの内装についても可能なかぎり改修の手を加えないことを前提とした。耐震補強もホールの外側部分を中心に利用者から直接見えない箇所で行い、オリジナルデザインを極力保全する計画である。さらに、特定部位の保存にとどまらず、空間構成の全体を後世に伝えるように努めたい。 一方で新たに埋蔵文化財センターとしての機能を満たす必要があるが、劇場としての空間特性を利用して、展示資料等を最適な保存環境に保つことが可能なホール内に、展示スペースや、木器と鉄器それぞれの特別収蔵庫を含むヴィジブル・ストーレッジ(見える収蔵庫)を配置する。温熱環境的には、ホール内については大きな気積と高い天井高さ、さらに新設のトップライトを利用した煙突効果により積極的な自然通風を促すことで、非空調とする計画である。温湿度管理が必須の特別収蔵庫についても、①収蔵庫内壁、②同外壁、 ③ホール 、④ホワイエ/階段という四重の容れ子構造を活用して、環境負荷および維持管理費を低減する。また美術展示棟は調査作業エリアとして利用するが、劇場部分とを接続するガラス張りのウィングは「見える整理作業室」として市民に開かれたスペースとする予定である。将来的に増え続ける収蔵スペースは十分な容積を持つフライタワー内に確保し、容れ子状に収蔵棚を積層させる計画とした。 展示スペースや「見える収蔵庫」がホール内に点在し、それらの新しいエレメントの背後に保存された村野藤吾のデザインが見え隠れすることにより、従来のホワイトキューブミュージアムとは異なる新しいタイプの博物館となることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
旧八幡市民会館は設計実務としては、9月に予定される北九州市の公共事業評価を経て、11月には基本設計を完了する予定である。設計実務と並行して、公益性や文化的価値といった無形の採算性を数字(収益額)に落とし込むための計算手法を、新しい埋蔵文化財センターをサンプルとして具体的にシミュレーションする計画である。最終的には他のコンヴァージョンプロジェクトにおいても、一般的なDCF法(将来生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に置き換える手法)を用いて客観的な採算性評価が可能となる汎用性の高い計算手法として確立することを目標とする。 宝塚ホテル旧館についても、行政および運営事業者と引き続き協議を続けて行く予定である。客観的な採算性評価をエヴィデンスとして提示することで潜在的な市場性を可視化し、解体撤去ではなく宝塚ホテル旧館の再活用こそが地域全体の再生に繋がることを論理的に示したいと考える。 これら途中段階の研究成果は、学会や海外を含む招待講演や建築雑誌等での発表を予定している。また研究代表者は2020年4月に開館予定の宝塚市立文化芸術センターにおいて開催予定のオープン記念展覧会に招待されており、八幡市民会館コンヴァージョン計画についてこれまでの経緯を含め紹介する予定である。特に最新の計画案については3480mm(W)×3920mm(D)×1080mm(H)サイズの巨大模型(縮尺S=1:25)を展示予定である(2020年4月19日現在、新型コロナウイルス感染拡大にともない開館時期は未定)。
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次年度使用額が生じた理由 |
使い残しによる繰越し。
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