研究実績の概要 |
本研究は、デザイン学と色彩学の視座から、イギリスのデザイン規格カラーチャートへ投影された政治思想の一次資料に基づく論証が目標である。3年間にわたる研究調査と成果発表を通じ、「国家」と「民族」を表現するプロパガンダ媒体としての色彩の利用について、検証を深めた。 最終年度の実績として、「情報の科学と技術 71(3)」において『表色系とは何か』という招待論文を発表した。本研究成果の総括として、2021年9月に学術選書『色を分ける 色で分ける』(京都大学学術出版会)を上梓する予定である。(現在、組版中)本書では、全体主義国家の政治体制がもたらした「肌の色による分離」政策について、詳細な背景を記した。ナチズムとファシズムが「民族の純潔」を守るという思想の下で、今までほとんど注目されなかった有色人種や外国人に対しての身体色計測に使ったカラーチャート各種を精査した。 従来の調査で漏れのあった先鋭なナショナリズム党派として、ファシズムについての調査を進めた。1920~1930年代にヨーロッパ各国に強い影響を及ぼしたナショナリズム、特にファシズムを体現するデザインと配色について、イギリスとイタリア、ドイツの違いを調査した。イギリスやイタリアへの渡航が困難であったため、当時の文献をインターネットや書籍で参照することになった。 過去3年間の研究成果を踏まえ、2021年6月、日本色彩学会第52回全国大会'21(オンライン開催)において、イタリアのムッソリーニの国家ファシスト党やイギリスのモズレーが率いたイギリスファシスト連合の民兵組織「黒シャツ隊」(伊:Camicie Nere,英:Blackshirts)を事例に、黒色が与える印象と社会背景との照合を行った。資料調査として、イギリスファシスト連合の機関週刊紙「The Blackshirt, 1933-1939」を中心に調査を行った。
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