本研究の目的は、イノベーションの萌芽プロセスを明らかにすることである。今年度はイノベーションの萌芽段階に重要な協働における創発プロセスについて検討をおこなった。協働でアイデア生成を行う時、イノベーションを創発するような実りのある議論がどのような過程で成立するのかを検討することは重要である。今年度は、議論の過程において、個人の独創的なアイデアが他者との議論によりどのような条件で発展し、どのような条件で抑制されるかについて検討した。具体的には、ある課題において、個人で事前に作成させたアイデアをもちよらせ、ペアワークによって協働でよりよい課題解決ができるようなアイデアを検討させた。ペアワークの結果、個人ワークよりも創造性が高く、独創性と実用性を兼ねそろえた成果物のアイデアを得られたペアとそうでなかったペアについて比較検討を行った。 創造性が高い成果物を得られたペアと得られなかったペアの議論の過程を比較すると、得られたペアでは、ペアの一方が生成した独創的なアイデアに触発されて、他方の参加者がその独創性を称賛し,別の新しいアイデアを加えていく事例が多く観察された。失敗したペアでは、一方の参加者のアイデアの独創性が他方の参加者に理解されず、独創性が矮小化され、ペアの成果物に個人の独創性が反映されない事例が観察された。このことから、アイデアが醸成され、他者と共有され、実行に移されていくというイノベーションの萌芽過程において、他者視点取得(パースペクティブ・テイキング)がシナジー効果を生み出すことが示唆された。
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