研究課題/領域番号 |
18K11979
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上田 彩子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (40582416)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 他者評価 / アバター / 社会的インタラクション場面 / ヴァーチャル・リアリティ |
研究実績の概要 |
近年,自動運転車など,システム(機械)が人間の感覚運動機能に自動的に介入する情報技術の実装化が急速に広まっている。近い将来、こうした自動化技術によって機能が拡張された個人を含む社会的インタラクションが日常的なものになることが予想される。本研究課題の目的は,自動化技術の感覚運動機能への介入が,社会的インタラクション場面の視覚情報に基づく社会的判断に与える影響について検討するというものであり、本年度の主な研究実施計画は、実験環境設備を整えること、また、予備実験を十分に行い、適当な実験パラダイムの構築・選定を行うことであった。 本年度は、当初の予定どおり、実験環境設備と適当な実験パラダイムの構築・予備実験を行なった。具体的には、アバターの行動制御ができる操作空間としてヴァーチャル・リアリティ空間を設定し、社会的インタラクションが発生する状況(自己アバターの進行経路を他者を想定したアバターが侵入してくる状況・前方を横切る状況)の構築を行なった。予備実験においては、まず、他者のアバターの挙動の変化によって他者に対する社会的評価が変化するかを確認した。具体的には、自己のアバターの挙動は一定にし、他者のアバターの挙動を、自動化技術の介入を想定したスムーズなものからぎこちのないものまで3段階を設定し、それに伴い、他者の好ましさやアバターの操作スキルの評価が変化するか検討した。また、挙動だけでなく、アバターの見た目も社会的評価に影響を与える可能性があるため、角ばったフォルムと丸みをおびたフォルムのものを設定し、その影響についても検討した。その結果、どちらのフォルムでもぎこちなさが高い場合に他者の好ましさと操作スキルを低く評価することが認められた。ただし、他者の好ましさに関してのみ、丸みを帯びたフォルムでは、評価の下がり方は角ばったフォルムのものほどではないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れていると判断した理由は、当初は、当該年度に実験環境設備と適当な実験パラダイムの構築・予備実験を行い、その結果をもとに本実験で用いる実験パラダイムの選定を行い、本実験をスタートさせる予定だったからである。 遅れた理由の1つ目としては、所属研究室の異動が挙げられる。それに伴い、新たに倫理申請書類を作成し、それに対して理研の倫理委員会から許可がでるまで実験をスタートさせることができなかった。また、実験環境や実験パラダイム構築に必要な開発環境を組み立て直すこと、新しいサポートメンバーを募ること、実験参加者の募集システムを確立させることに時間がかかった。 遅れた理由の2つ目としては、実験パラダイム構築の進行の遅れである。本研究ではアバターの行動制御ができる操作空間としてヴァーチャル・リアリティ空間を設定し、複数のプレイヤーが同時に操作する環境の構築を試みたが、安定したデータを取得することが難しく、また、参加者がなかなか没入できないという問題が発生することがわかった。さらに、参加者グループによって個人のパフォーマンスの差が大きすぎることで、一定した自動システムの介入レベルの設定が困難であることがわかった。そのため、予備実験においては、他者を想定したアバターの制御は自動で行い、また、自己のアバターについても、制御はしないレベルからスタートさせることにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、当初の予定どおり、予備実験のあとに実験パラダイムを選定し、本実験に移行する。ただし、その遂行にはいくつかの課題が想定される。 ひとつめの課題はアバターの行動制御ができる操作空間としてヴァーチャル・リアリティ空間を利用する点である。これまでの取り組みによって、現在の機器を用いたヴァーチャル・リアリティを用いた実験状況では、安定したデータを取ることが難しく、また、参加者の没入感の点で問題があることが明らかになっている。この課題に関しては、機器を変更し、プログラムの精度を上げるなどして改善を試みる。それでも実験の遂行が難しい場合は、操作空間をヴァーチャル・リアリティではなく、PCモニタ上で2Dで表現するものなどに変更するなどして対応する。 ふたつめの課題は、複数のプレイヤーが操作する状況においての実験環境統制の難しさである。当初の計画では、複数のプレイヤーの操作に、直接、自動技術の介入をすることを想定していたが、自動技術の介入を想定した他者アバターの挙動の制御はプログラム上でも再現が可能である。そのため、できるだけ実験環境を統制できるようにするため、他者アバターの制御はプログラム上で行うものとする。それに伴い、複数のプレイヤーによる社会的インタラクション場面を2者の社会的インタラクション場面に変更し、自己アバターの制御に関する条件を、介入あり・なしの2パタン、他者を想定したアバターの制御に関する条件を介入あり・なしの2パタンとして、2by2の4パタンの状況を設定し、検討を進めることで課題に対応する。 新しい社会的インタラクション状況については、本課題の要であるため、実験環境の構築を行なった後、さらに予備実験を行い、より適切なものを選定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額が生じた理由として、“現在までの進捗状況”でも報告した通り、進捗状況の遅れがある。実験環境の構築および予備実験は、研究室にすでにある機器を用いて自分で行ったため、新しい機材の購入やサポートスタッフの雇用が必要なかった。また、予備実験の参加者は理研と雇用関係にある無償ボランティアだったため、謝礼が発生しなかった。今後の使用計画としては、本課題を適切に遂行するために、新たに実験環境を構築するための機材が必要である。また、プログラムの作成を行うサポートスタッフの人件費や、実験参加者への謝礼、実験結果を発表するための海外学会への参加等を予定している。
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