研究課題/領域番号 |
18K11981
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
三浦 武 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (30250898)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 民俗芸能 / 民俗舞踊 / モーションキャプチャ / 変形地図 / カルトグラム / 歴史報告書 / 文書解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、全国で最も多くの重要無形民俗文化財を有している秋田県の民俗舞踊に関して、その伝承地の地理的・歴史的背景との関連性を定量的に検討できる解析手法を開発することを目的として研究を進めている。令和2年度においては、民俗舞踊の動作特徴と歴史的背景との関連性を定量的に解析できる手法の開発に取り組む予定であったが、昨年度の段階で新たに発生した、民俗舞踊の動作特徴と伝承地の地理的配置との関連性を可視化する変形地図(カルトグラム)を用いる手法の問題点の解決という課題に関して、昨年度発表した手法よりさらに優れた手法の開発に目処が付いたため、こちらに関しても並列して取り組んだ。 まず、後者の地図変形の新手法に関しては、カルトグラムの一つである距離カルトグラムの作成に関して、地図の変形過程において過度な変形により本来交差しない線群が交差したりといった問題に関して、昨年度発表した手法において不足していた数学的な根拠に基づいた解決法を提案した。具体的には、カルトグラム作成過程を、数学的概念の一つであるベクトル場での現象として捉え、ベクトル場の可視化に用いられる流線の流れを一つの写像と見なし、流線は交差しないという性質を上記のカルトグラムにおける交差部発生の防止に応用して、数学的根拠に基づいた形で実際に交差部の発生しないカルトグラムを得ることに成功した。 前者の民俗舞踊の動作特徴と歴史的背景との関連性を定量的に解析できる手法の開発に関しては、上記のカルトグラムを用いた動作特徴と地理的配置との関連性の可視化と並列して、各伝承地の地方自治体が発行した歴史報告書に対して定量的な文書解析法を適用し、歴史報告書に出現する種々の事象と各伝承地との関連性を可視化した散布図を得ることに成功した。上記のように、民俗舞踊の地理的・歴史的背景との関連性を可視化する手法の開発、ある程度の成功が見られたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度においては、本研究はおおむね順調に進展している。まず、民俗舞踊の動作特徴の抽出については、既に前年度までの研究において、秋田県の民俗舞踊のモーションキャプチャデータ解析による手法がほぼ確立している。得られた動作特徴と伝承地の地理的配置の関連性を可視化する変形地図の作成技法の開発については、前年度までに、伝承地間距離を動作特徴の類似度に合わせて変化させる距離カルトグラムの作成に関していくつかの改善法を提案したが、令和2年度において、数学的根拠に基づいたより優れた作成法の開発に成功した。これにより、民俗舞踊研究のみならず変形地図作成の分野にも貢献できたと言える。これらの成果は、国内学会1回の発表および学術論文誌掲載の論文(査読有)1編の形で公表された。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度において、特に変形地図を用いる方法に関して、前年度の研究をさらに推し進めて、より優れた手法の開発に成功した。この方法は、現段階では、民俗舞踊の現在における地理的背景の解明のみに使用されているが、地図変形の応用としては、現在ではなくより古い時代に描かれた古地図に関して、測量等の定量的手法が未開発だったため不正確となっている地図上の地理的配置を現在地図に合わせて修正する「幾何補正」への活用という用途もあることが判明した。古い時代から伝承されてきた民俗舞踊の研究に関して、古地図の幾何補正が何らかの貢献をもたらすことも考えられるため、今後はその分野も視野に入れて研究を進め、得られた成果を国内あるいは国際学会で発表し、また学術論文誌(査読有)への投稿も目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度には、年度当初に国内への広がりを見せ始めた新型コロナウイルス感染に関して、年度後半には改善し、それに伴って国内あるいは国際学会において本研究の研究成果を発表する予定を組み、その旅費として使用する経費を設定していたが、感染状況は予想に反してさらに悪化し、年度全体を通して国内・国際両学会の対面形式での開催がほぼ全面的に見送られたため、その分が残額となった。次年度使用額に関しては、学術論文誌への論文掲載料等に使用する予定である。
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