本研究では、全国で最も多くの重要無形民俗文化財を有している秋田県の民俗舞踊に関して、その伝承地の地理的・歴史的背景との関連性を定量的に検討できる解析手法を開発することを目的として研究を進めてきた。令和5年度は、民俗芸能が伝承されてきた地域の古地図の情報を活用するための基本技術として知られる古地図の幾何補正法に関して、従来法が持つ問題点を解決する新たな手法を提案した。古地図の幾何補正とは、測量技術が十分でなかった時代に描かれた古地図の幾何的な歪みを、現在地図に重ねられるように補正するプロセスを指し、今回は、筆者が以前提案したベクトル場解析による幾何補正法に関して、問題点として指摘されてきた計算時間の長さを短縮するため、計算時間が短いドローニー三角形分割法と組み合わせてハイブリッド化することにより、計算時間を数十分の1に短縮することに成功した。 他方で、古地図の局所的歪みを評価する新たな手法も提案した。具体的には、古地図の大きさ・方向・位置を現在地図に合わせた後に両者の違いを抽出する過程において、位置合わせのずれの影響を受けないように、空間的な微分を含んだナブラ演算子を用いる手法を構築し、それにより古地図の局所的歪みをより客観的に評価できるようになった。 本来は、古地図解析と民俗舞踊の動作解析を合わせて行い、その伝承過程に関する新たな知見を得ることも本年度の目的としていたが、筆者が研究期間の途中である6月に急性大動脈解離を発症し、開胸手術による治療とその後のリハビリテーションのため4ヶ月以上に渡って病休となり、この部分に関する研究を進めることはできなかった。
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