本研究は、TorやI2Pに代表されるいわゆる「匿名化通信技術」と、それらを用いた内部通報プラットフォームに関し、法的・社会的な位置づけを明らかにすることを目的としている。内部通報について、法的保護だけではなく技術的保護という文脈を重視して研究を行うものであり、その点で独自性があると考えられる。 研究実施計画では、①匿名化通信技術を用いた内部通報プラットフォームの実態調査、②匿名化通信技術の合法性に関する検討、③匿名化通信技術や暗号技術の応用に関する正しい規制のあり方の検討を目標とした。 最終年度である本年度は、新型コロナ禍で不可能となっていた海外渡航が可能となり、海外カンファレンスへの現地参加が可能となった。これにより、①としては国内外で開発者や報道記者と接触して情報交換を行った。②としては匿名化通信技術に関する調査研究を進め、代表的なセキュアメッセージングサービスの運営者とシンポジウムで議論した。③としては、匿名化通信技術の根幹であるエンド・ツー・エンド暗号化の規制の動きや社会への影響について研究を進め、暗号化とデータ保護の関係や、いわゆるグローバルサウスにおける暗号規制の問題に関して国際学会で発表し、暗号規制に関する国際声明の起草に主導的に関わった。また、この種の技術開発の背景にあるオープンソースとその変遷に関する論文を公刊した。 研究期間全体を振り返ると、当初のWikileaks的なウェブサイトの立ち上げから、暗号自体や匿名化セキュア・メッセージングによる情報共有に関心がシフトした。それに基づき執筆したダークウェブに関する論文は、この種のものとしては多く引用されている。また、I2Pを介した匿名メッセージングを開発するとともに、I2P内の検索を実現した。加えて専門性を評価され、暗号に関する国際団体のメンバとなり声明を起草するなど、一般向けの啓蒙にも取り組むことができた。
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