研究課題/領域番号 |
18K12000
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研究機関 | 敬和学園大学 |
研究代表者 |
一戸 信哉 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (50326625)
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研究分担者 |
房 文慧 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (40319017)
井出 明 金沢大学, GS教育系, 准教授 (80341585)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダークツーリズム / 環境問題 / ソーシャルメディア / フェイクニュース / レッドツーリズム / 北陸学 |
研究実績の概要 |
初年度は観光情報の「送り手」に関する研究が主要な取り組みとなった。一戸は、8mmフィルムのデジタル化と公開、映像作品の制作を進め、作品の上映会を行った。これらの取り組みの中から、新たな素材や資料の提供を得て、「ダークツーリズム」情報の観光への適用について、実践的な取り組みを行い可能性を探っている。内外事例の調査は、3人とも積極的に実施した。房・一戸については、中国陝西省での調査を共同で実施している。 論文として、一戸は新発田地域のダークツーリズムに関する論文及び中国陝西省でのレッドツーリズムに関する論文、房は環境問題と観光振興に関する論文をそれぞれ発表している。井出は、「ダークツーリズム」に関して、著書『ダークツーリズム : 悲しみの記憶を巡る旅』(幻冬舎 2018年)及び 『ダークツーリズム拡張 : 近代の再構築』(美術出版社 2018年)を発表し、「ダークツーリズム」概念の社会的認知向上に大いに寄与した。このほか関連する論文を6本発表している。 研究発表として、3人共同で「ソーシャルメディア時代の観光」と題するシンポジウムを市民向けに開催、新発田地域の住民を交えつつ、研究の発展に関する討議を行っている。このほか、井出は、「北陸学」や震災遺構と地域の復興など、ダークツーリズムに関して、さまざまな切り口から問題提起を行った。 「受け手」に関する研究は、一戸が主として取り組んでいる。初年度は、サイバー犯罪に関する白浜シンポジウムにおいて、「フェイクニュースと情報モラル教育」と題する研究報告を行い、フェイクニュース問題への対応と教育関係者の関心のギャップを指摘した。情報ネットワーク法学会研究大会でも、「ソーシャルメディアと教育」とするパネルセッションを企画し、問題提起を行っている。また、共著書『ソーシャルメディア論 つながりを再設計する』(青弓社、2019年)の改訂を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究メンバーの討議と情報共有は、オンラインツールで恒常的に行われている。「ダークツーリズム」に関する多くの知見を有する井出からの情報提供をもとに、新潟の同一の研究機関で研究活動を行う房・一戸は、学内での研究打ち合わせを頻繁に行っており、共同での研究は順調に推移している。調査対象地域がやや拡大したが、それぞれの地域の「悲しみの歴史」をどのように観光資源としての情報につなげていくか、多角的な視座を得ることができている。戦後70年をすぎた現在、一般の「観光」の導線上に「悲しみの記憶」を見せていくのか。それぞれの地域の課題の共有について、さらに考察を深める視座の獲得に努めている。 「送り手」研究については、それぞれの研究者が成果を残すと同時に、成果発表も行い、順調に進展している。それぞれの調査が、稚内、サハリン、大分、台湾、中国など複数に行われており、これらが着実に成果を残している。井出は「ダークツーリズム」に関する多くの論考を発表しつつ、その成果を一戸・房と共有する。一戸・房はその成果をベースとして、デジタルアーカイブや環境経済学の視点を取り入れながら、新潟県新発田市、中国陝西省などに関する研究成果を積み上げている。井出の提唱する「北陸学」も地域研究の観光情報学への展開を想定したものとなっている。 8mmフィルムアーカイブの構築は、提供者へのアクセスやその後の交渉に時間を要している。 「受け手」の情報リテラシーに関する研究については、大分で検討を行ったほか、情報ネットワーク法学会での分科会を開催し、討議を行っている。このほか、各地で情報リテラシーに関する事例の検討を続けている。さらに観光情報学と情報リテラシーの接点を意識した研究を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
井出の提唱する「ダークツーリズム」に依拠しつつ、引き続きそれぞれの問題関心から検討を行い、同時にそれらにより「観光情報」の今日的あり方について検討を加える。「送り手」研究については、「ダークツーリズム」に関連する取材活動を、教育活動とも連動しながら一戸が展開しており、これに8mmフィルム・アーカイブとの連動により、多様な形で成果を出すことを計画している。房は環境経済学の観点から、朱鷺の保護に関する日中比較を検討しており、これをさらに発展させる計画である。井出は、金沢を拠点とした「北陸学」の研究のほか、内外での「ダークツーリズム」に関する調査活動を継続する。「北陸学」の定義の中に新潟を入れることができるかもまた、一つの論点がであるが、石川県を中心にした検討を井出、新潟県を中心にした検討を一戸・房が行っており、これを何らかの形で統合し、成果物に持っていく方向を検討する。また同時に、中国その他アジア地域における「戦争」の記憶にどのように「導線」を設けて、観光情報に結びつけるかについて、さらにチームとしての検討を加える。 「受け手」の課題は多様化しているが、特にフェイクニュース対策と消費者保護の課題については、一戸が引き続き検討を行う。ソーシャルメディア上の歴史認識の変容に対して、「観光」がもたらす影響力は大きい。しかし、実際には「観光」に行かないネットユーザにより、国家間・民族間の相互不信が生まれる傾向が強まっている。この課題に「観光情報」がどのような可能性を持ちうるのか、この観点で検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、学内に装備されているもので一時的にカバーして、研究活動を実施したため、少なく抑えられている。 また次年度海外での調査を予定しており、その分の経費の一部が繰り越した形となっている。
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備考 |
8mmフィルム・アーカイブについては、公開について確認中のデータが複数ある。
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