本研究は,国内外において自然災害によって被害を受けた国・地域の災害アーカイブを調査,研究した.海外の災害アーカイブは,2018年度には,ポルトガル国立公文書館など,2019年度には,ニュージーランド国立公文書館クライストチャーチ分館などの調査を実施した.日本において2020年1月に新型コロナウィルス(COVID-19)の感染が確認されたため,各国の入国制限措置により海外での調査は中止した.2020年度にはポルトガルのアジュダ国立図書館所蔵のリスボン大地震資料目録の翻訳,2021年度は,アチェ津波アーカイブセンター資料目録の翻訳を行った.日本で設立した災害アーカイブは,設立直後から数年は事業が継続するが,実施機関に対して補助金などの予算や人員が打ち切られたり,アーカイブのシステムが経年劣化することにより,災害アーカイブが一過性のものとなる.日本の災害アーカイブは,事業および災害資料自体の連続性,安定性が十分ではない.そのため,多額の予算,大規模な人員を投入した災害アーカイブが数年後,閉鎖されてそれまでに収集された災害資料が散逸したり,非公開となる事例が出てきた.被災者等から後世へ伝えるべき被災経験である資料や記録の集積である災害アーカイブが公開されないことは防災や減災に影響が大きいだけではなく,被災した地域の重要な歴史や情報の損失となる. 災害多発国である日本において,災害アーカイブは本研究の調査研究に基づき,連続性,安定性に加えて,被災者だけではなく,その他の住民および災害アーカイブにアクセスするすべての人にユーザーフレンドリーな構造を兼ね備えていることが望ましい.
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