本研究の目的は,視線計測に基づき、批判情報の呈示が意思決定に及ぼす効果における個人差および個人内変化の認知的メカニズムを明らかにすることであった。デマに関する先行研究では,批判情報の提示はデマに対する信念を緩和させる効果が示されてきた。しかし,その効果は限定的で,批判情報提示後も依然としてデマへのポジティブな信念を維持する反応も一定数みられた。これは,(a)批判情報を呈示していても被験者の一部がそれを見ていないために効果が限定されていた可能性と,(b)批判情報を見ていても効果が限定されるという可能性が考えられる。どちらの可能性が支持されるかによって,批判情報の提示効果の理解およびデマ拡散問題に対する適切な介入方法は異なってくる。 初年度および2年目はデマ情報の信頼性判断に及ぼす批判情報の呈示効果と視覚的注意の関連性について実験を行った。結果から,(b)の可能性が支持され,批判情報呈示後もデマを信じ続ける人は,そうでない人と比べて,批判情報に視覚的注意を払っていることが示された。研究成果は,国際学会および国際雑誌で発表した。3年目は,デマ拡散行動の背後にある心理的要因とソーシャルメディア等の情報通信技術の関係についてこれまでの研究を整理し,書籍の一部として発表した。4年目および最終年度は,(b)批判情報を見ていても効果が限定される可能性について,「誤情報持続効果」をキーワードする従来の研究の中で再検討し,本研究におけるこれまでの成果の位置づけを行った。研究成果は,展望論文として学術誌に投稿し,最終年度に掲載された。
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