本研究は、ドライバが運転と同時に,運転以外の動作(例えば、スマートフォンを触るなど)を行うことに起因する、不安全運転による事故の低減を支援するシステム提案を視野に入れ、マルチタスク遂行の基盤メカニズムの一端を明らかにすることを目的としている。マルチタスク遂行を規定する要因として、特に、認知資源容量の個人差に焦点を当てて検討を行ってきた。これまで、マルチタスク遂行と認知資源容量の関連を検討するために、若年者に対してドライビングシミュレータを用いた二重課題実験を行なった。その中で、認知資源容量が少なく見積もられている実験参加者は、マルチタスク遂行によってパフォーマンス低下しない傾向にある可能性を明らかにした。 今年度は、高齢者に対するドライビングシミュレータを用いた二重課題実験の結果と、若年者のそれを比較分析した。高齢者は、マルチタスクの際に、運転課題だけでなく、二次課題(計算課題)の成績も低下し、若年者よりも有意にマルチタスク遂行が苦手であることがわかった。しかしながら、高齢者の主観的なマルチタスク遂行力は若年者のものよりも高く、マルチタスク遂行に関する過信が明らかとなった。 また、マルチタスク遂行における高齢者のパフォーマンスは、若年者よりも個人差が大きいことが見受けられた。すなわち、マルチタスク遂行による運転課題への影響が、従来の研究のように、ネガティブな結果となる実験参加者と、反対に、運転課題のパフォーマンスを向上させるというポジティブな結果に作用する実験参加者の存在を確認した。そして、ポジティブな結果に作用する実験参加者は、単調な運転中に、マインドワンダリングを多く行っていることが示唆された。運転以外の課題が、運転中の覚醒水準の維持に寄与している可能性が考えられた。
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