研究課題/領域番号 |
18K12020
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
草山 太一 帝京大学, 文学部, 教授 (80384197)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 協力行動 / 報酬分配 / ラット |
研究実績の概要 |
本研究は、比較認知科学のアプローチにより、協力後の報酬分配に着目して、動物の協力行動の成立要因について検討することを目的としている。これまでの成果として、げっ歯類(ラット)と鳥類(ジュズカケバト)について、それぞれの2個体が餌の入った箱の前面に取り付けられた左右のレバーを同時に押すことで箱の蓋が開いて、餌を獲得できる装置(同時レバー押し協力課題)より協力行動の生起を調べたところ、いずれの動物種も同時にレバー押しをすることができた。しかし、特にラットについては、得られた餌の配分は公平ではなく、一方が独占した。そこで、ラットを対象とした報酬の公平分配について、別の課題より検討した。3個体が同じ飼育ケージで育てられたラット(3グループ、合計9個体)を対象に、2個体以上の複数が協働することで餌を獲得できる装置を提示した際に、個体同士が協力して餌を取り、またその餌を公平分配することができるかどうかを調べた。ある個体が餌容器を手元に手繰り寄せるためにチェーンを引き、また別の個体は同じタイミングで餌容器の前にある遮蔽物を持ち上げるというように、それぞれが異なる役割を担うことで餌を獲得できる装置を作成し、ビデオ観察を行った。繰り返して観察を行った結果、チェーンを引く個体と遮蔽物を持ち上げる個体が観察を通じて一貫するなど、徐々に分担役割が定まっていくことが確認された。しかし、その一方で、個体同士がお互いに相手の行動をモニターして課題解決を目指すような行動の同期性はほとんど認められず、餌の分配も前回と同じで公平ではなかった。一連の実験結果からは、「餌獲得が他個体との協働の賜物である」ということを客観的に評価するまでには至っていない。一貫した結論を導くためにはさらなる詳細な検討が期待されるが、動物が示す協力行動は単に複数の個体が協同するだけで成立するとは言い難いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ渦の状況において、研究実施は最小限に留めざるを得なかった。また新しい課題(装置)で検討したが、その結果は一貫して否定的であった。これらの反応が、真の意味において本来の性質に基づいてあるかどうかを検討するためにも、実験の再現性やデータの信頼性を考慮し、新しい別の課題や個体数を追加した検討する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
限れられた環境下での実験であったが、動物の協力行動を調査するための具体的な手法として新たな手続きを設定して検討したことは大きな進展であったと言える。しかし、動物が示す協力後の報酬の分配に関しては、独占する個体がほとんどで公平分配する反応は全く認められていない。この現象が動物本来の特性であるか、または実験課題に由来することなのか調べることが今年度の目標となる。短期間で課題解決できるように実験装置や手続きの改善・改良を継続しながら、より多くのデータ収集ができるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験を最小限に留めたことと、実験に使用する装置を自らで作製したことで、経費を抑えることができた。特にコロナ禍で学会発表などで旅費を使用する機会がなかった。できるだけ順調に計画が進むように実験環境を整備することも含め、信頼のできるデータ数を得るための対象動物や実験に関わる材料(実験機器)の購入に充てる予定である。
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