比較認知科学のアプローチにより、協力後の報酬分配に着目し、動物の協力行動の成立要因について検討することを目的とした。これまでの成果として、げっ歯類(ラット)と鳥類(ジュズカケバト)について、同時に同じ行動をすることで餌を獲得することができ、見かけ上の協力行動を示すことができた。同時レバー押し協力課題といって、それぞれの2個体が餌の入った容器の前方に取り付けられた2つのレバーをそれぞれが同じタイミングで押すことで容器の蓋が開いて、2個体が餌を獲得できる装置を用いた。その結果、いずれの動物も同時にレバー押しをすることができた。しかし、その一方で、ラットについては、得られた餌の配分は公平ではなく、一方が独占した。 そこで、群飼育のラットを対象に、上記とは別の課題より報酬の公平分配について検討した。ある個体は餌容器を手元に手繰り寄せるためにチェーンを引き、また別の個体は同じタイミングで餌容器の前にある遮蔽物を持ち上げるというように、それぞれが異なる役割を担うことで餌を獲得できる装置を作成して検討した。その結果、それぞれ別の役割を担う場合でも、餌を獲得できるようになったが、個体同士がお互いに相手の行動をモニターして課題解決を目指すような行動の同調・同期性は確認できず、餌の分配も公平ではなかった。一連の結果から、対象とした動物が「餌獲得が他個体との協働の成果である」ということを認識している根拠を示すことはできなかった。
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