研究実績の概要 |
本年度は,創発現象の背後に潜む規則性の発見に,言語化が及ぼす影響について,検討を進めた.思考過程の言語化は,学習や問題解決において促進的な効果を示すことが知られている(Berry,1983; 伊藤,2009).また,これとは対照的に,心的制約に捉われる洞察問題解決などにおいては,抑制的な効果を示すことが明らかになっている(Schooler et al., 1993).本研究では,創発現象を認知し,その背後に潜む規則性の発見の過程において,思考過程の言語化が,促進的に働くのか,または抑制的に働くのかについて,実験的な検討を行った.本実験では,局所規則(「下位規則」と呼ぶ)から大局的な創発現象(「上位規則」と呼ぶ)が現れる「ライフゲーム」を対象に,現象の観察を通して,下位規則の発見を行うことを課題とした.この際,自身の思考過程に対する言語化の有無を教示により操作した.なお,思考過程の言語化を求めた実験群には,実験課題に取り組む前に,言語化についての教示に加え,宣教師と囚人問題に言語化を行いながら取り組む練習課題を課した.実験参加者は大学生22名で,言語化を行わない統制群または言語化を行う実験群に均等に配置された.なお,実験は,Webを介して個別に行われた.実験の結果,下位規則の発見率には条件間で差異は認められなかった.次に,1試行毎に参加者の報告した仮説を対象に,その仮説が,ライフゲームのセル1つ1つに関する言及であったのか,または,複数のセルを1まとまりのパターンとした言及であったのかについて,分類を行った.その結果,セルに関する言及には,条件間に際は認められなかった.一方,パターンに関する言及においては,統計的な差異は認められなかったものの,統制群が言語化群よりもより多く報告していたことが示され,言語化が促進的に働く可能性が示唆された.
|